最新記事

アメリカ政治

苦境オバマ政権の輝く星、ヒラリー

存在感を増す彼女が中東和平の直接交渉を成功させれば、「ヒラリー大統領」への道が開けるかも

2010年9月9日(木)17時51分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

無傷のまま オバマ政権への逆風が吹くなか、クリントンは国務長官としてそつなく仕事をこなしてきた(8月3日) Jim Young-Reuters

 ヒラリー・クリントンを覚えている? アメリカ史上最強の女性政治家は、国務長官としての18カ月間の大半を目立たないように過ごしてきた。

 だが今となっては、激しい非難にさらされているオバマ政権内で、彼女ほど無傷で生き残っている主要メンバーはいない。前回の大統領選の民主党予備選ではバラク・オバマに敗れたが、クリントンには今や、政権内の誰よりも(つまり、ボスであるオバマよりも)輝かしい政治生命の未来が待ち受けているといえるかもしれない。

 オバマ政権の経済チームは迷走を続けており、アメリカを不景気から救い出すことも、国民や世界に希望と自信を取り戻すよう力強いメッセージを送ることもできていない。オバマの側近たちは、巧みな演説で聴衆を沸かせた大統領候補を判断力のない指導者に変えてしまったと、片っ端から批判の矢面に立たされている。ラーム・エマニュエル主席補佐官までも、シカゴ市長選に出馬して、地元に逃げ帰ることを検討しているようにみえる。

 そんな彼らと対照的なのがクリントンだ。彼女は9月8日にワシントンのシンクタンク「外交評議会」で講演したときに着ていたサーモンピンクのスーツのように、華々しいイメージを打ち出そうとしているようだ。具体策への言及が少なく、大胆な発言ばかりめだったスピーチのなかで、クリントンは世界における「新たなアメリカの時代」、アメリカの「グローバルな指導力が不可欠な時代」の到来を宣言。アメリカには増大する財政赤字による「安全保障上の脅威」をはじめ、さまざまな弱みがあるものの、「世界はアメリカが先頭に立つことを期待している」と語った。

21世紀のキッシンジャーになれるか

 来週には、その言葉が試される舞台がある。クリントンはただでさえ多忙な業務に加えて、外交の達人ヘンリー・キッシンジャー元国務長官のごとく、中東和平の仲介者という劇的な役割を新たに請け負った。9月14〜15日にエジプト東部の保養地シャルムエルシェイクで開かれるイスラエルとパレスチナの第2回目の直接和平交渉の場で、交渉をリードするのだ。

 クリントンはこれまで、ジョージ・ミッチェルやリチャード・ホルブルック(さらには国務長官の座を狙っているジョン・ケリーまで)を特使に任命して交渉に当たらせることが多く、交渉の直接的な仲介者という役割にはあまり慣れていない。

 今まで大した成果を挙げてこなかった中東和平交渉が、今度こそうまくいくなんて、なぜ言い切れるのか──外交評議会会長で父ブッシュ政権時代に中東特使を務めた経験もあるリチャード・ハースは、講演後の質疑応答でクリントンにそう質問した。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相もパレスチナのマフムード・アッバス議長も、二国家共存案を進展させるには「これが最後のチャンスかもしれないと認識」しているからだ、とクリントンは答えた。

 クリントンにとっても最後のチャンスになるかもしれない。率直な物言いを好む「鉄の女」が、世界で最も気難しい2人の指導者を説得できるのか。その答えはまもなくわかる。

 クリントンは他にも新たな交渉ごとを多数かかえている。それは、オバマ大統領が窮地に立たされるなかでクリントンの人気が比較的高いからだ。

バイデン副大統領とポストを交換?

 目下の注目は、クリントンとジョー・バイデン副大統領が立場を入れ替わり、2012年大統領選で副大統領候補としてオバマとタッグを組むかどうか(バイデンは以前から国務長官就任を望んでいた)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中