最新記事

疑惑

米司法省、消えた「拷問メール」の謎

テロ容疑者の拷問を容認していた司法省内の法律家の電子メールが消滅していたことが分かった。システム上の問題か、それとも故意に削除したのか

2010年3月1日(月)16時43分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

 米司法省の電子メール紛失問題は、どのくらい根の深いものなのか? 司法業務査察室(OPR)がこのほど公開した報告書で、ブッシュ前政権下でテロ容疑者の拷問を容認していたとされる司法省の法律家らの電子メールが消滅していたことが明らかになった。

 ゲーリー・グリンダー司法次官代理は2月26日、法制意見室元室長ジェイ・バイビーと彼の部下ジョン・ユーの電子メールが削除されていた件について調査を始めたと、上院司法委員会で証言した。

 電子メール紛失についてパトリック・レイヒー上院議員に強く迫られたグリンダーは、OPRの報告書(電子メールの消滅については脚注で短く触れられていただけ)は「不正な行為があったと指摘してはいない」と述べた。一方でグリンダーは「電子メールの保管に関して具体的に何が行われていたのか明らかにするため」コンピューター専門家の力を借りるよう司法省職員に指示したと語った。

 司法省はこの問題で今後しばらく頭を悩ませることになりそうだ。グリンダーが示唆するように、仮にバイビーとユーの電子メールが消滅した理由が「保管」する際のシステム上の問題にあるのなら、「もっと大きな組織的な問題を意味する」と、ワシントンの市民監視団体CREWの主席顧問アン・ワイズマンは言う。

疑問に答えていない司法省

 ワイズマンは司法省の「告訴を真剣に検討している」と言う。CREWは3年前にも、削除された何百万件もの電子メールの復元を求めてブッシュ政権を訴えた(コンピューター専門家が2200件の電子メールの復元に成功し、示談に終わった)。

 国家公文書館は連邦記録法に基づいて紛失した電子メールについて、司法省に説明を求めた。連邦記録法では、連邦政府職員は政府の仕事に関するどんな記録も破棄を禁じられてる。電子メールも以前から「政府の記録」として認識され、公文書館と司法省が保管を義務づけている。事実、司法省がウェブサイト上で全職員に対して通達している方針では、「電子的な保管方法を許可しない限り、電子メールはプリントアウトして保管しなければならない」としている。

 現在のところ、司法省はこの電子メール論争に関する疑問にほとんど答えていない。電子メールが保管されていなかったのは、911テロ後数年間の法制意見室に限られた話なのか、あるいは省内全体で同じ問題が起きているのかも明らかにされていない。OPRはユーとバイビーの行為を5年間も調査していたのに、なぜ彼らのメールが消滅した原因を突き止められなかったのか、という疑問にも答えていない。

 CREWから告訴されたり、レイヒー上院議員や他の議員からの圧力が強まれば、司法省は説得力のある何らかの回答を準備する必要があるだろう。 

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中