最新記事

社会

ブラ「チラ見せ」啓発運動の効果は?

フェースブックに「今日のブラの色」を投稿するのが流行中。乳癌啓発キャンペーンという説があるが……

2010年1月12日(火)17時45分
メアリー・カーマイケル(医療担当)

あなたは何色? フェースブックの書き込みは乳癌治療支援か、単なるおふざけか

 1月7日の夜、私は自分の着けているブラの色をインターネットで公表した。いつもならそんなことはしないが、一応、表向きは正当な理由があったので。

 7日午後4時ごろ、私はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックで、友人がステータスに奇妙な書き込みをしたのを見つけた。ジャーナリストから弁護士に転身した友人で、普段は聡明でわかりやすくしっかりした文章を書く人だ。その友人の投稿は「ローズとラベンダーのペイズリー」。

 はあ? その後7時間というもの、私のページのステータス更新情報はさまざまな色で埋まっていった。ピンクにベージュ、そして黒......。

 私は気付いた。これはブラの色だ。それから友人の書き込みを見てちょっと笑ってしまった。「着けてない」とか「ピンク」(この友人は男性)とか「収穫の黄金色」(これも男性)とか。

 そして、私がしなかったことといえば?

 乳癌について考えることだ。それこそが、みんなが書き込みを始めた真意らしいのだが。

 この伝達キャンペーンの出発点がどこかはわからないが、誰かが数日前にフェースブックでチェーンメール形式のメッセージを女性たちに投げかけたようだ。乳癌研究の支援という名の下に「チラ見せ」を呼びかけ、女性の友人にメッセージを回して乳房についての関心を高めよう、というわけだ。おっと失礼、「乳癌」についての関心だった。

笑いながら大事なことを学ぶ手法もあるが

 見せる下着がまかり通る今の時代、このキャンペーンはそれほどいやらしいものとは思えない。「ベージュ」と書き込むことは猥談からは程遠い。でも結局、これって何の意味があるの? ステータスボックスにブラの色をアップした人たちのほとんどは、文字通りブラの色を書き込んだだけ。乳癌については一言だって触れていない。

 これは啓発でも教育でもない。単なるおふざけだ。ニューズウィーク記者のケイト・デーリーが数カ月前、ある際どい募金広告について書いていたのと同じで、「それを見た人のうち何人が乳癌について話し、何人が乳房について思い出すだろうか?」

 奇抜でおバカで、謎めいたマーケティング戦術で公衆衛生への関心を高めようとするのは間違っていない。うまくいけば、笑いを誘いながら大事なことを学んでもらえる。マーケティングとして大成功する場合もあるだろう。

 数十万人の女性があらゆる友人に「チラ見せ」をしたのは善意ゆえ、というのは私にもわかる。彼女たちの多くは、乳癌研究のためのウォーキングイベントに参加したり、あらゆる種類のピンクリボングッズを買ったりしているはずだ。ピンクリボングッズの売り上げが適切に使われているか調査している人だっている。

 でも今回のキャンペーンは、乳癌研究に何の貢献もしていない企業が発売するピンク色のグッズを買い、医学に貢献したと言っているのと大差ない。たぶん何の害もないが、何の意味もない。

「あなたの動脈について書き込もう!」

 現時点で、乳癌について知らない人などいるはずがない。私たちが必要としているのは、乳癌を思い出させる書き込みではなく、治療や予防策のはず。フェースブックの伝言ゲームがちょっとでもそれに貢献したなんて考える人がいるだろうか?

 いるはずがない。最初の電子メールを出したキャンペーン発起人ですら、貢献したとは思っていないだろう。メールはこう結んである。「女の子たちがみんなステータスに色を書き込んでいるのはなぜだろう、と男性陣の話題をさらうまでどのくらいかかるか、試してみるのは面白そう!」

 つまりはそういうこと。目的は乳癌支援などではない。おふざけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中