最新記事

動画配信

海賊版天国だった中国が『孤独のグルメ』をリメイクするまで

2015年10月30日(金)11時13分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 また新規参入者が次々と登場したことも響いた。検索大手・百度が創設した愛奇芸は海賊版コンテンツを排した、正規配信だけの高品質サイトとして人気を博した。膨大な作品の配信権を押さえた楽視網も急成長。スマートフォンメーカーとして台頭したシャオミも独自のコンテンツ配信サービスを展開した。

 さらには正規版配信の流れなどなんのそのと海賊版コンテンツ見放題の中小サイトも次々とあらわれる。先日、中国共産党中央ネット安全・情報化領導グループ弁公室と国家新聞出版広電総局が違法動画配信アプリのリストを公開したが、その数はなんと81に及んでいる。リストには違法とされた理由も附記されているが、中国国内での放送許可を得られていない映画やドラマを流すだけではなく、ベトナムやタイのニュース番組のライブ中継、アラビア語チャンネルのストリーミングなどなど、中国の海賊版動画配信業界がきわめて広範なコンテンツに及んでいることがみてとれる。

 こうした中、優酷と土豆網は2012年に合併し優酷土豆が誕生する。それでも巻き返しはならず、2014年4月にはアリババが出資。そして2015年10月16日、アリババが全株式の買収を提案。優酷土豆の経営陣も同意していることから、独自の道を摸索してきた中国動画配信サイトの巨頭がアリババの完全子会社となることが決定的となった。

今も海賊版(と検閲)の問題が動画配信業界を苦しめる

 アリババによる優酷土豆の買収は、中国の動画配信サービスが正規版配信に続く、大きな転機を迎えたことを象徴しているように見える。その新たなトレンドとは、ネットオリジナル番組の制作だ。

 アリババは傘下に映画制作会社を保有しており、今後は優酷土豆との連携が有力視される。正規配信の雄、愛奇芸も独自番組の制作を始めており、日本のドラマ『世にも奇妙な物語』をリメイクした『不可思議的夏天』を制作している。アリババ・優酷土豆もドラマ『孤独のグルメ』のリメイク『孤独的美食家』を今年放送した。

『孤独のグルメ』のリメイク『孤独的美食家』の予告編


 ネットのオリジナルドラマでは、アメリカのネットフリックスやHuluが先行している。YouTubeも来年から独自コンテンツ制作を始めることが発表された。独自の進化を遂げてきた中国の動画配信サービスだが、米国発の潮流に合致した動きを見せている。世界的潮流へのキャッチアップやサービスの利便性において、日本と比べて中国ははるかに先行している。

 その一方で、いかにして収益を確保するかはいまだに未知数だ。例えばネットフリックスのような定額配信サービスだが、中国でも、インターネットテレビやセットトップボックスとのセット売りという形式で年数千円程度の会員権を販売する動きは始まっている。ただしこれはあくまで機器本体の価格込みだからできること。契約期間終了後にどれだけのユーザーが更新するかは未知数だ。正規版配信がトレンドになった後も、コンテンツは無料という海賊版が築いた価値観は残っている。大手はともかく、中小のサイトはいまだに海賊版を配信しており、有料化すればどれだけのユーザーが流出するかわからない。オリジナルコンテンツ制作という世界的潮流に乗っかる一方で、無料広告モデルを脱した課金ビジネスモデルの構築という面では大きく遅れをとっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英財務相、11月26日に年次予算発表 財政を「厳し

ワールド

金総書記、韓国国会議長と握手 中国の抗日戦勝記念式

ワールド

イスラエル軍、ガザ市で作戦継続 人口密集地に兵力投

ビジネス

トルコ8月CPI、前年比+32.95%に鈍化 予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中