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建築が温室効果ガスを出す? 「CO2e」削減で暮らしを変えるユニークな北欧建築の最前線

2025年11月23日(日)11時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

「VMハウジーズ」

ガラスの外観の「VMハウジーズ」は、オアスタッドで最初に建設された集合住宅。M字型の棟(2004年完成)とV字型の棟(2005年完成)とが向かい合っており、2棟の間にたっぷりと空間を取ることで、どの部屋にも最適な自然光と風景が届くようにした。2つの棟は少しデザインが異なる。V字型の棟の南向きのバルコニーが面白い。日陰を最小限に抑え、風通しを確保するため、小さい三角形にしてランダムな角度で設置されている。部屋の床もバルコニーの床も木製だ。

ザ・マウンテン

VMハウジーズの隣には「ザ・マウンテン」がある。2008年に完成した集合住宅で、こんなデザインの住まいが存在するのかと目から鱗が落ちた。山を描いたアルミパネルの内側はカラフルな駐車場だ。駐車場を土台に、山のように傾斜をつけて(階段状にして)80戸の住居が建てられている。各戸にはテラスがあり、日光や眺望、各戸を彩る植物が楽しめる。住居部分の緑地は、雨水をためて灌漑している。機能性の高い高層マンションではなく、都市部でも屋外とのつながりを重視した開放的な住まいが実現できるという好例だ。

「エイトテル」

「8」の形をした巨大な集合住宅

開放感のある集合住宅(総戸数476戸。売買物件)がもう1つある。ザ・マウンテンよりもさらにダイナミックな「エイトテル(デンマーク語で8の意味)」だ。上空から見ると住居部分が交差し「8」を描いていることから名付けられた。「1つのビルに1つの都市」をコンセプトとし、公立の教会や幼稚園、オフィスやリユースショップ、レストランなどもある。大阪万博の「大屋根リング」の面積とほぼ同じ6万1千平方メートルの敷地に、2010年に完成した。当時、デンマーク最大の民間開発プロジェクトだったという。

南側の住居部分の端を傾斜状の屋根(1700平方メートル。植物を植えてある)にしたのも個性的だ。この切込みによって風通しがよくなり、自然光を内側に最大限に取り込める。有料で見学可能で、住人のTさんに案内してもらった。Tさんの住まいは8が交差する付近にあるが「日当たりがよくて快適です」とのことだった。北側も採光を考慮し、端の住居部分は他より高くなっている。8が交差する下部は暗くなりがちなため、まぶしいほどの金色で装飾されている。上層階の暗めの部分にも、同じ金色のパネルが使われていた。

「エイトテル」

1階から最上階までは緩やかなスロープでつながっており、徒歩でも、自転車でも上り下りはスムーズだ(1階には駐輪場あり)。各住まいからは、広々とした2つの中庭や、南側の切込みの向こうに広がる自然保護区の眺望が楽しめる。眺望は本当に素晴らしかった。

金色の場所にある共有ルームでは、居住者たちが各種のクラブ活動を行っているという。居住者同士で物の貸し借り(例えば工具など)をしたり、不要な物を無料で授受し合うリサイクル活動もしているそうだ。

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