最新記事
環境

建築が温室効果ガスを出す? 「CO2e」削減で暮らしを変えるユニークな北欧建築の最前線

2025年11月23日(日)11時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

建材を再利用して作った集合住宅

1960年代、デンマークでは主にコンクリートや鉄鋼で作られたプレハブ建築の大量建設が始まった。しかし、現在ではそれらの建材が環境に優しくなく、心身の健康にも寄与しないという認識が広まり、木材、コルク、藁といったナチュラルな建材が使われることが増えている。また、建材を廃棄せずにリサイクルして、ライフサイクルを伸ばす取り組みも行われている。オアスタッドには、建材をリサイクルした先駆的な集合住宅がある。

「アップサイクル・ストゥーディオズ」

2018年に完成した「アップサイクル・ストゥーディオズ」は、長方形の住戸を斜めに並べた構造だ。各戸は3階建てで、1階(写真に写っている側の反対側)に車庫、3階にテラスがある。見たことがない形態で、住宅とは思えない建築だった。コンクリート、窓、木材など1000トンもの廃材を建材として再利用した。従来の建築に比べ、CO2排出量を45%削減できたという。

newsweekjp20251122152105.jpg

もう1つは、パッチワーク作品のような美しい外観を持つ「ザ・リソース・ロウズ」(2019年完成)。外壁のレンガは、ビール工場の壁材(セメントで固められていたため、切り取った)や全国から集めた学校や工場の壁材を組み合わせた。床材はフローリングメーカーの廃材(木材)で作られている。地下鉄建設で発生した木材廃棄物も約300t活用した。ガラスも再利用だという。リサイクルした建材は全体のわずか10%とはいえ、CO2排出量の削減を実現した。太陽光発電システムを備え、トイレには雨水を利用している。

また昨年は、800人が住める5棟の住宅群「UN17ビラージュ」も完成した。建材を再利用したり持続可能なエネルギーのみを使ううえ、年間150万リットルの水をリサイクルする雨水収集施設もある。生物多様性(周辺の動植物の様子)やコミュニティー(平等な社会的交流)といった点も考慮した"理想的なサステナブル住宅"で、国内外の注目を集めている。

デンマーク政府は、建築のCO2e排出量削減を強化

デンマークでは、国のCO2e排出量(様々な温室効果ガスが地球温暖化に与える影響を、二酸化炭素の量に換算して示したもの)の約30%を、建材の生産や建設後の建物の運用時のエネルギー消費などの「建設部門」が占めている。

こうした状況を改善するため、デンマークは世界で初めて、2023年に1,000平方メートル(約302坪)を超える新築の建物に対してCO2e排出量規制を導入した。そして今夏、建築規制が改訂され、新築の建物のCO2e年間排出量の基準値(許容値)がさらに厳しくなった。規制の適用範囲も拡大され、150平方メートル以上(約45坪以上)のほぼすべての建物が対象になった。規制を守るため、関連企業は設計の初期段階から、建材選びや現場作業を最適化する必要がある。今後、規制は一層厳しくなる予定だ。デンマークはヨーロッパで最も厳しい建築規制を行っているという。

コペンハーゲンでは、今後も革新的で環境に配慮した住宅は増えていくだろう。日本でもグリーン建築の重要性が高まっているが、優れたデザインと環境と調和した北欧建築は、日本の建築の未来を考えるうえで参考になることだろう。

岩澤里美[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。欧米企業の脱炭素の取り組みについては、専門誌『環境ビジネス』『オルタナ(サステナビリティとSDGsがテーマのビジネス情報誌)』、環境事業を支援する『サーキュラーエコノミードット東京』のサイトにも寄稿。www.satomi-iwasawa.com

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中