最新記事
韓国

韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料を1ウォンも払わず 「連絡先分からず」と苦しい言い訳

2024年10月18日(金)17時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

5年以上受け取らなければ協会が使用可能

当然ながらこの著作権料の未払いで被害を被ったのは、ハン・ガンだけではなかった。 最近10年間(2014〜23年)支給されなかった補償金は合計104億8,700万ウォン(約11億5000万円)に達すると見積もられている。実に毎年約10億ウォン(約1億1000万円)の補償金が著作者に支払われないまま協会に積み立てられているという。

原因としては不合理な補償手続きが大きいという。韓国の著作権法では、教科書に掲載される著作物の場合、文化体育観光部(日本の文科省に相当)が指定した補償金受領団体(今回問題となった文著協)を通じて、出版後に著作権者に補償することになっている。出版社から著作権料を先に徴収し、それを後から著作権者に分配する仕組みだ。

このシステムでは補償金を受け取るためには作家自らが直接申請しなければ保証金を受け取れない可能性が高い。とはいえ、自分の作品が使われたかどうかを把握するのは難しく、大部分が受領できないため不合理なシステムだという指摘が出ている。

実際、『韓国が嫌いで』などのヒット作で知られる人気作家チャン·ガンミョンは、フェイスブックに「自分の文章が教科書に載せられたということを著者がこのように後になってから知っている現状がおかしい」と投稿。「著者が申請しなければ著作権料を支払わない慣例は不条理だ」と指摘した。


作家チャン・ガンミョンが補償金未払いについてFacebookに投稿した内容

5年経過すると支払わなくてもいい?

さらに問題なのは、この受領されないまま宙に浮いた補償金は5年が過ぎれば、文著協が文化体育観光部の承認の下に公益目的で使用が可能になっているという点だ。このシステムを利用する形で文著協が使った補償金は約138億ウォン(約15億円)にのぼり、内訳は△補償金分配システム改善に25億2,000万ウォン(約2億7500万円)△著作権使用実態調査に15億2,000万ウォン(約1億6000万円)△著作権者広報キャンペーンに7億4,000万ウォン(約8000万円)となっていることが分かった。

また、補償金の分配に消極的な文著協が、自分たちの収入を増やす徴収にだけ気を使っているという指摘も出ている。文氏協は8月、著作権信託管理手数料に対する徴収対象を教科書以外にも広げる規則改正計画を知らせるパブリックコメントの手続きに入っている。 改正案によると、文著協が管理手数料を賦課できる対象は8件から17件まで拡大する可能性があり、このままでは著作権者への保証金未払い問題が更に拡大する可能性も否定できない。

今回の問題を指摘したキム議員は「ハン・ガンさんの連絡先が分からなくて著作権料を支給しなかったという文著協の釈明は非常に荒唐無稽だ。著作権補償金は作家たちの権利を保護し創作活動を支援するための制度だが、文著協がこれを疎かにしたまま自分たちの収益増大だけに重点を置くことは深刻な問題」として「著作権者たちが正当な代価を受けられるよう即刻措置が必要だ」と話している。

今回問題となった文著協を管轄する韓国文化体育観光部は、ハン・ガンのノーベル賞受賞を契機として韓国文学の普及を図ろうと10月15日、当初計画になかった「韓国文学海外進出拡大方案を模索する」という題名の資料を緊急に発表して翻訳者育成を加速させようとしているが、翻訳者の育成以前に作家たちへの正当な支払をやるべきではないだろうか。

編集部よりお知らせ
ニュースの「その先」を、あなたに...ニューズウィーク日本版、noteで定期購読を開始
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時初の4万5000円 米ハ

ワールド

EU、気候変動対策の新目標で期限内合意見えず 暫定

ワールド

仏新首相、フィッチの格下げで険しさ増す政策運営 歳

ビジネス

消費税率引き下げることは適当でない=加藤財務相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中