頭空っぽで楽しめるエンタメ映画はオスカーを取れるのか?──ノミネートだけでも栄誉の『トップガン』
Can Maverick Win?
無情な時の流れを表現
何しろ『トップガン』にはクールな要素が全てそろう。
革ジャン。バイクで爆走するクルーズを逆方向から空撮し、倍の速度で走っているように見せる映像。部下の前でメンツをつぶされる上官。クルーズをからかうジェニファー・コネリー。切ない別れ。夕日を浴び、海辺でアメフトに興じる上半身裸の男たち。
脚本もアクション超大作の設計図として、無二の出来だ。決死の任務に向けてマーヴェリック以下パイロット集団のモチベーションを高めつつ、観客には任務の困難さを繰り返し説明して、待ち受ける危険を理解させる。
セリフには、マッチョだが憎めない軽口と時間に対する思いを巧みに織り交ぜた。「おまえみたいな存在は絶滅に瀕している」「最大の敵は時間」「まだ時間はある」。無情な時の流れと次世代へのバトンタッチを、今回の『トップガン』は執拗に表現する。
観客を映画館に呼び戻すことは可能なのか。存亡に関わる問いへの答えを業界全体が模索する今、時間の無情さと伝統の継承はハリウッドの上層部にもひとごとではない。
わくわくさせるのも魅力
終盤、マーヴェリックとかつての相棒の息子で部下のルースター(マイルズ・テラー)は、乗っていた戦闘機を撃墜される。マーヴェリックは敵の基地からF14トムキャットを盗もうと提案。ルースターは古い戦闘機を「骨董品」と笑うが、2人はF14で飛び立ち、敵の第5世代戦闘機と戦火を交えて凱旋する。
『トップガン』自身も骨董品で、昔ながらの映画作りと観客の心を一つにする映画の力にささげられた賛歌だ。大スターを主演に迎えて数億㌦規模のアクションをちりばめ、映像センスに秀でた監督にメガホンを取らせれば今も劇場に客が入ることも、力強く証明した。
受賞の可能性はあるのか。観客が高揚した気分で劇場を後にする娯楽映画が作品賞を取った例を探すには、かなり時間を巻き戻さなければならない。『ロッキー』が『タクシードライバー』と『大統領の陰謀』を抑えて作品賞を獲得したのは1977年だ。