最新記事

発達障害

発達障害の診断を受けた僕が、「わかってもらう」よりも大切にしたこと

2022年8月5日(金)12時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
発達障害と夫婦関係

一方的に理解を求めるのではなく、すり合わせることが重要だと気付く(写真はイメージです) AsiaVision-iStock

<発達障害の診断を受け、ASDの「相手の立場に立って考えるのが苦手」という特性で妻を苦しめていたことを自覚。立ち向かうべき問題が明確になったことで、夫婦関係は表情を変え始める──『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』より一部抜粋>

近年、ADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)をはじめとする発達障害は日本でも広く知られるようになった。著名人の公表などで認知が進み、大人になって診断を受ける当事者も少なくない。教育現場や職場によっては支援が進みつつあるものの、今なお困難な社会生活を送っている当事者は多い。

人の気持ちがわからない。空気が読めない。要領が悪い。片付けられない。衝動的に行動してしまう──これら発達障害の困りごとは周囲から誤解されやすく、当事者は「他の人が当たり前にこなしていることが、どうして自分にはできないのか」という問いかけを自分に向けることで心身ともに疲弊していく。

7月に『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』(創元社)を上梓したライターの遠藤光太氏は、鬱病と休職を繰り返し、夫婦関係も破綻寸前だった社会人4年目にしてADHDとASDの診断を受けた。

遠藤氏は、本書で「発達障害の特性があるにもかかわらずそれらを押し殺し、過剰適応するくせがついていたこと」が生きづらさの核心だったと語る。また、「相手の立場に立って考えるのが苦手」というASDの特性が妻を苦しめていたことを自覚する。

ここでは、診断を転機に自己理解を深める著者が、家族との関係性を修復していく第9章「家族と発達障害」を2回に分けて抜粋する。今回は、その前半を掲載。

◇ ◇ ◇


「やっぱデータのほうがいいよね?」 と妻が急に言う。

話がよくわからない。これは、娘の七五三の写真の話だった。妻としては、前日からの流れで話が続いているのだろうが、僕は文脈を摑みづらい。このあたりのズレは以前からあり、喧嘩になっていた。

発達障害がわかったことにより、夫婦関係は表情を変えた。

発達障害を自覚するまでも自分なりにさまざまな努力をしていたが、それらはことごとく空を切り、やるせなさでいっぱいになった。具体的な障害を自覚してからも問題はたくさんあるが、少なくとも立ち向かうべき特性が明確になった。ようやく、焦点が合い始めた。互いに距離を詰めて、すり合わせることが重要なのだとわかり、冷静になれた。

例えば何かに集中しているとき、妻から言われたことに「わかった」と答えているにもかかわらず、わかっていないことがあった。聴覚情報だけだと認識が抜け落ちやすい特性がかかわっているようだった。

こうした問題は、声で伝えるのではなく、LINEで送ってもらうようにするだけで解決できる。

発達障害がすれ違いを積み上げる

そもそも僕は、妊娠発覚から出産までの間ですでに調和を崩していた。体重が一〇kg以上も増えていた。周囲からは、「幸せ太りだね」と言われていた。ただでさえアンバランスな発達である上に、「父親になる」と意識するあまり、力んで仕事をしていたため、深夜まで目いっぱいの残業をして不規則な食事を摂ったり、運動をする時間を失ったりしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中