最新記事

キャリア

心が疲れると、正しい決断はできない

2015年9月30日(水)16時05分
アンディ・ギブソン ※Dialogue Review Jun/Aug 2015より転載

 さらに、性別や人種による差別意識や頑迷な敵対感情などの文化的バイアスもある。こうしたバイアスに気づき、それを正すことは、良い判断をするうえで非常に重要なことといえる。

 自動システムの限界を越えるには、「被制御システム」を使うのがよい。このシステムは、これから起こるシナリオを推測し、リスクとコストを評価しつつ、より多くの情報をもとにした詳細かつていねいな分析を行い、私たちの直感的な反応の是非を判断する。

心のエネルギーを使い果たさないために

 問題は、自動システムによる決断を覆すのが容易ではないことだ。被制御システムが働くときには、精神力が消耗する。意識的に考えれば考えるほど、心のエネルギーが費やされていくのだ。エネルギーが底をつくと、時間をかけたにもかかわらず、当初の直感的な決断に戻ってしまう。

 さまざまな実験から、心のエネルギーが空になると、衝動を抑制したり、熟考したりすることが難しくなることが分かっている。そのことをおそらくもっとも厄介なこととして描き出したのは、イスラエルの心理学者シャイ・ダンジガーらによる裁判官を対象にした研究だろう。

 受刑者の仮釈放を審理していた裁判官たちは、開始直後は寛大であり、3分の2の受刑者に仮釈放を言い渡していた。ところが、休憩を入れず、飲食もせずに根を詰めて審理を続けたところ、後半になると仮釈放者数がゼロに近くなっていった。被制御システムによる思考を長時間続けた結果、裁判官は心のエネルギーを使い果たし、現状維持という決断に流されるようになったのだ。

 こうした実験結果は、私たちの仕事の仕方に大いなる示唆を与えてくれる。私たちの決断に偏りが出てきて、それを正すだけの心のエネルギーが尽きているようだったら、より良い決断のために心のリソースを維持することを心がけるべきだろう。

 より良い決断をするためには、正しい分析のプロセスを踏んだり、情報の正しさを検討するだけでは足りない。精神状態を健全に保たなければならないのだ。できるかぎり情報を集めながら、バイアスのない決断をするための五つのヒントを紹介しよう。

(1)心のエネルギーを集中させる

 心のエネルギーは、徹底的に考えたり、衝動をコントロールしようとするたびにすり減っていく。だから、ここぞという大事な場面のためにセーブすることを心がけるべきだ。重要な決断が控えている時は、それとは無関係な事柄に関する判断を極力減らそう。物事の優先順位を決めたり、忙しいときでもルーチンをキープしようとしたりすることで、エネルギーの無駄づかいを防ぐことができる。有効活用すべきなのは時間だけではない。心のエネルギーにも注意を払おう。

(2)ストレスを避ける

 ストレスは、不安や脅威の警告サインである。ストレスを感じたり、ネガティブな気分にあるときには、「自動システム」はそこにフォーカスして働く。それ以外には目もくれなくなってしまうのだ。それで、チャンスを逃したり、大事な要素を忘れてしまったり、情報が不十分なまま何かを選択したりする。また、ストレスが強いと、リスクのあることに手を出したくなる。平静時には考えられないような危ない橋を渡ったりしがちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中