最新記事
BOOKS

推し活の危険性...お金ではなく、推しによる自己肯定感が実は危うい

2026年2月15日(日)16時45分
印南敦史 (作家、書評家)

「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」

興味深いのは、著者が彼女の自己肯定感の低さに着目している点である。

自己肯定感(自尊感情)には「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」があり、前者は無条件で自分の価値を認める感情を指す。「生まれてきてよかった」「自分は生きていていいんだ」と無理なく思え、自分のよいところも悪いところも受け入れ、自分を尊重するための感情だ。

対する後者は、他者からほめられたり、成功体験を積み重ねたりすることで得られる感情。他者との比較にもとづく相対的な評価によって高まるものなので、絶対的ではなく変動しやすい。学校の成績や仕事の評価などがそれにあたるが、進学や転職などでステージが変われば、それまで得られていた自尊感情を得られなくなるということだ。

いずれにしても人間の自尊感情は、基本的自尊感情を土台として、その上に社会的自尊感情を積み上げることによって形成されるわけである。

この点を踏まえて注目したいのが、以下の記述だ。


 あらためて、【サナ】のケースに当てはめて考えてみたい。彼女はみずから希望した進路に進んだが、納棺師という仕事が社会的自尊感情の形成に結びついていない。なぜなら、彼女を「肯定されたような気持ち」にさせてくれるのは、仕事での評価や成果ではなく、「推し」だからである。「仕事をがんばっている自分が、仕事の現場で正当に評価されたい」という欲求は、本来は仕事でしか満たされないもので、どれだけ「推し活」で充足感を得たとしても、根底から癒されることはない。元来の欲求は、未消化のまま残り続けることになる。(252ページより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 9
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 10
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中