最新記事
世界経済

高まる経済・市場の変動リスク...見通し悪化や中銀政策転換で

2024年8月26日(月)23時05分

今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、景気低迷の兆しや労働市場の悪化リスクが議論に影を落とし、金融政策の行方に注目が集まった。写真はパウエル米FRB議長、カナダ中銀のマックレム総裁、英中銀のベイリー総裁。ジャクソンホールで23日撮影(2024年 ロイター/Ann Saphir)

今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、景気低迷の兆しや労働市場の悪化リスクが議論に影を落とし、金融政策の行方に注目が集まった。

米欧の中央銀行は利下げに舵を切っているが、日銀は金融緩和の解除を進める方針を再確認しており、こうした金融政策の乖離や中国経済の低迷継続を背景に、世界経済と国際金融市場が今後も激しい変動に見舞われる恐れがある。


 

今月は米雇用統計が予想を下回り、米景気後退(リセッション)に対する懸念が浮上。7月には日銀のサプライズ利上げもあり、市場が混乱に陥った。

これまでのところ多くのアナリストは、世界経済が今後数年緩やかに成長するとの国際通貨基金(IMF)の予測を支持している。IMFによると、米経済はソフトランディング(軟着陸)を達成し、欧州の経済成長は上向き、中国経済は低迷から脱する見通しだ。

だが、こうした明るい予測は不安定な土台に上に成り立っており、市場では米経済の軟着陸を疑問視する声や、ユーロ圏経済の腰折れ、中国の消費低迷を懸念する声が出ている。

主要中銀が利下げに向かう中で、これが金融政策の「正常化」なのか、一段の景気減速を回避する第一歩なのかは現時点で判断が難しい。

こうした不透明感を背景に、世界の株式市場や通貨が荒い値動きに見舞われるリスクがある。

IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「市場はやや未知の領域にあるため、ボラティリティーが再び高まる恐れがある」と指摘。

「日本は若干異なるサイクルにある。市場はそれが何を意味するか理解する必要があり、過剰反応する。このため、さらなるボラティリティーが生じるだろう」と述べた。

成長リスク

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、ジャクソンホール会議の講演で、9月の利下げ開始を示唆。雇用市場の一段の冷え込みは歓迎されないとの見解を示した。

ジャクソンホール会議では、求人数の継続的な減少が失業率の急上昇を招く転換点に近づいている可能性を示す論文も公表された。

欧州中央銀行(ECB)では、物価圧力の緩和に加え、経済成長見通しが大幅に悪化しているため、9月の利下げ実施で意見がまとまりつつある。

ECB理事会メンバーのレーン・フィンランド中銀総裁は「ユーロ圏ではマイナス成長リスクが高まっており、次回9月の理事会で利下げを実施する根拠が強まっている」と述べた。

日本でも需要主導の物価上昇ペースが鈍化しており、日銀の追加利上げに関する決定が複雑になる可能性がある。

元日銀審議委員で慶應義塾大学教授の白井さゆり氏は、内需が非常に弱いとし、経済的な見地から日銀が利上げを行う理由は乏しいとの認識を示した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中