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温暖化「うま過ぎる話」
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誤解だらけなのか
トンデモ科学が地球を救う?
専門家の間には、人類が過去に排出した温室効果ガスは今後何世紀も地球を暖め続けるというコンセンサスができつつある。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は07年の第4次評価報告書で、地球の気温は今世紀末までに2〜5度上昇する可能性があると予測した。
最悪のシナリオを想定する科学者は増えている。今世紀末までに気温が5度上昇すれば、人類の文明はほぼ確実に大打撃を受ける。だからこそ多くの科学者は、ほんの数年前まで非常識で危険に思えた気候工学の計画を真剣に検討するよう訴えるようになったのだ。
皮肉なのは地球工学のなかで比較的まともなCO2の回収という選択肢は、ほかの案よりコストがはるかに高く、急激な気温上昇を緩和できる可能性も低いことだ。
CO2の回収によって大気を浄化する案は、「宇宙の鏡」などを使って大気を冷やす案に比べて異論が少ない。新たなガスの大量排出も設備や装置の追加も必要ないため、実証実験が制御不能に陥るリスクがずっと小さいからだ。
コロンビア大学の気象学者ウォレス・ブローカーとクラウス・ラックナーは、石炭火力発電所のCCS技術を大気圏全体に応用できるのではないかと考えている。だが、大気中のCO2を回収するのは気の遠くなるような作業だ。
世界中の工場や自動車から排出されるCO2は年間約300億トン。それを液化して、レマン湖の容量に匹敵する地中スペースに充填するには、4年弱の時間がかかると予想される。しかも、この試算はCO2排出量が毎年1・8%増加することも、過去100年間に大量のCO2が既に大気中に蓄積されていることも(具体的な量について信頼できる推定値はない)考慮していない。
研究者は、地中の奥深くには液化CO2をすべて吸収できるだけの多孔質岩があると考えている。だが、そこまでCO2を送るには長い年月と莫大なコストが掛かる。将来的にCO2の除去に掛かる費用が現在の1トン当たり200ドルから50ドルに下落すると仮定しても、現在の年間排出量を回収するだけで1500億ドルに達するだろう。
オゾン層の破壊が心配
「気候操作」という考え方は昔からあった。65年には、気候を改変して過去の気温上昇を相殺する方法を検討した報告書が、リンドン・ジョンソン米大統領に提出された(奇妙なことに、報告書は排出削減には触れていない)。
この案はその後、科学者の間に広まったが、90年代には議論の対象から消えた。大きな理由は、排出削減の合意を築こうとする動きが政策レベルで進んでいたためだ。「気候操作はモラルに反するという空気が強まり、議論が許されなかった」と、カナダのカルガリー大学の物理学者デービッド・キースは07年に振り返っている。
この流れを変えたのはノーベル賞化学者のクルッツェンだった。06年、クルッツェンは学術誌クライマティック・チェンジに論文を発表。ロシアの物理学者ミハイル・ブディコの案を紹介した。
ブディコは74年、飛行機を使って二酸化硫黄(SO2)を大気中に散布し、大気中の水分やその他の分子と化学反応を起こさせて、火山灰と同じ性質の硫酸塩をつくるというアイデアを提唱した(クルッツェンは飛行機よりも気象観測気球の利用を推奨している)。
クルッツェンの推定によれば、気温を大きく下げるために必要なSO2の量は驚くほど少ない。