最新記事

米住宅バブルの崩壊始まる

金融危機クロニクル

リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する

2009.09.10

ニューストピックス

米住宅バブルの崩壊始まる

都市部の大半で住宅価格が下落し、「不動産頼み」の経済成長に終わりが見えてきた

2009年9月10日(木)12時14分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 アメリカの住宅ブームに終わりが見えてきた。最近までの米経済は「不動産頼み」だった。国税調査局の先週の発表によれば、住宅価格の中央値は00~05年の5年間で32%上昇(インフレ調整済み)。サンディエゴ127%、ロサンゼルス110%、ニューヨーク79%というように、著しく値上がりした地域もある。

 不動産はまるで貯金箱のように思えた。担保となる住宅の値上がりを見込んだ消費やローンの借り入れが増えたのも無理はない。だが、このシナリオはもう通用しそうにない。不動産神話の崩壊は、ダウ平均株価が最高値を記録したり石油価格が下落するよりも、米経済に差し迫った影響を及ぼすだろう。

 住宅ブームは自ら崩壊のタネをまいたといえそうだ。住宅価格と金利の上昇によって、住宅を買いたくても買えない人が増えている。全米不動産協会(NAR)によると、03年の中古住宅価格の中央値は18万200ドルで、世帯の年間所得が4万320ドルあれば買えた。それが今年8月には22万5700ドルに上昇、5万6544ドルの年収が必要だという。

変動金利型ローンに苦しむ

 買い手が減った不動産市場で、8月の住宅着工件数は前年比で20%減少した。新築・中古住宅の販売件数は昨年は840万戸近かったが、来年は740万戸に減るとNARは予測する。住宅を担保にしたローンを車やパソコンの消費に回す人が減るだろう。そのうえ住宅ブームを支えた低金利の終焉で、住宅保有者にはローン返済が重くのしかかることになる。

 残高10兆ドル近い一戸建て向け住宅ローンのうち、4分の1が毎年金利が見直される変動金利型だ。03~04年には最初の3~5年間金利を固定する「ハイブリッド型」が人気だったが、その金利が引き上げられる時期に来ている。03年に金利4%で20万ドル借りたときは月々の返済は955ドル。今では金利7.5%で返済額は1362ドルに増えた。30年固定型に借り替えても金利は6.25%に上がる。

 となればローンを払うために、消費を引き締めなければならない人もいるだろう。個人可処分所得に占める債務支払いの割合は07年に史上最高の15.6%に達すると、コンサルタント会社エコノミック・アナリシス・アソシエーツのスーザン・スターンは言う。英投資銀行大手HSBCは「景気後退リスク」を警告する。

 では住宅価格の上昇が投機バブルだったのかというと、専門家の見方は分かれる。ジョージ・ワシントン大学の経済学者リチャード・グリーンは、価格の上昇は長期金利の低下を反映したものだという。金利が下がれば、それだけ払える金額が増える。

 私もほぼ同じ意見だ。低インフレが長期金利の低下につながった。05年の30年固定型の住宅ローン利率は約6%(00年は7.5%、95年は8%だった)。

 投機的な動きも確かにあった。05年に購入された住宅の約40%が、投資あるいは休暇のためのセカンドハウスだったという調査結果がある。グローバルインサイト社とナショナル・シティ社共同の調査では、主要都市圏317カ所のうち、00年初めに住宅価格が過大評価されていると判断されたのは63カ所だった。06年半ばには236カ所に増え、うち79カ所は34%以上の過大評価とみなされた。

大恐慌以来初の値下がりへ

 住宅価格が適正に落ち着いても、消費者が支出を増やすことはないだろう。その喪失分を輸出増加やビジネス関連の投資で補えるうちはいい。

 しかしNARの最新調査によると、住宅価格は前年同期比で1.7%下落している。ムーディーズ・エコノミー・ドット・コムの予測でも、主要都市圏100カ所で値下がりし、来年には平均3.5%下がるという。同社の主任エコノミスト、マーク・ザンディによると、住宅価格が年間を通じて下がるのは1929年の大恐慌以来、初めてになる。

 真の危険はそこに潜んでいる。住宅価格が下がりすぎたり、下落傾向が長引けば、失われた信頼感と個人消費への悪影響を回復するのは容易ではない。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中