zzzzz

最新記事

バーナンキ「若い芽」発言

金融危機クロニクル

リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する

2009.09.10

ニューストピックス

バーナンキ「若い芽」発言

FRB議長が景気回復の兆しに言及。「若い芽」という言葉自体は流行し花開いたが、経済の本格回復はいつになるのか

2009年9月10日(木)12時03分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 春は再生の時。だから3月中旬、ベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長がテレビ番組『60ミニッツ』で、経済回復の「若い芽」が出たと語ったのは良いタイミングだった。以来「若い芽」という言葉は育ち、花開いた。

 希望の兆しを求めて躍起になっていたアナリストやジャーナリストは、この言葉を心を落ち着かせる呪文のように繰り返し唱えだした。エコノミストは今、成長の兆しを探し回っている。

 今なぜ、楽観主義が広がったのか? ウェルズ・ファーゴやゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースなどの金融機関が軒並み、最近では珍しい偉業──黒字決算──を達成しそうだからだ。

 4月15日にFRBが発表した全米12地区の連銀の景況報告(ベージュブック)は、数地区で「一部の業種に低い水準で安定する兆しがあった」としている。ローレンス・サマーズ国家経済会議(NEC)委員長も4月初旬、「景況感の悪化の底が見えない状態は数カ月以内に終わる」と語った。

 根拠に乏しい話だ。だが困難だったこの1年を振り返ると、明るい兆しには何だって飛び付きたくなるのも分かる。

誤診も多かったバーナンキ

 残念ながらバーナンキはこれまで、経済の芽を育てる才能は見せていない。不運なことに、彼の議長就任は住宅市場がちょうどピークに達していた06年2月だった。それ以来、国の経済の根幹をむしばむ病に対する彼の診断は、常に正しいとはいえなかった。

 例えば、バーナンキは07年5月、「サブプライム問題が経済全体または金融システムに与える影響は限定的だ」と、主張している。

 経済理論によれば、安い資本という形で大量の「肥料」が広く施されていれば、もう「若い芽」が出ていてもいいはずだ。だが今のところいい知らせ、つまり若い芽のすべては条件付きだ。

 ゴールドマン・サックスの1~3月期の業績は良かったが、それは決算期を11月末から12月末に変更し、損失を計上した08年12月を除外したからだ。JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)は、予想を上回る好業績に、政府から借りた資金の早期返済を約束したが、同時にカードローンの焦げ付きの増加も報告した。

 もちろん、どの地域を見るかで景気の見方も変わる。ニューヨークは、「雇用は下向き」で観光業にも「衰退が見られる」とベージュブックが指摘しており、悲観的な面が強く感じられる。

 一方、シカゴとその周辺の地域では希望の兆候が明らかだ。好況時にもそれほど盛り上がらず、不況でもそれほど落ち込まなったこの地域は、かなり持ち直している。シカゴの経済はニューヨークほど金融に頼っていない。

 FRBの3月の報告によれば「消費者の支出はいくらか改善し、企業支出にはあまり変化がない」。長い冬の後、シカゴ周辺の人々にはついに暖かい春の日差しが戻ってきたというわけだ。

賑わいは戻っても失業率は9%

「街角に人が戻ってきた」と、高級ショッピング街ミシガン・アベニューを見渡せる位置にあるオムニ・ホテルの支配人ビル・ベネットは言う。同ホテルの室料は昨年より20%安いとはいえ、週末には全347室が満室となる。しかし「若い芽」の大半は例外的な存在だ。シカゴ一帯の失業率は9%に達している。

 ミシガン湖畔の新築高層マンションはどれも売り尽くしセール中。高級百貨店のニーマン・マーカスやティファニーは、シカゴ大学の図書館並みに静かだ。

 これからは希望の芽も顔を出すかもしれないが、墓場行きの企業も増える。経済回復が本物だと分かるのは、言葉だけでなく現実に重要な経済指標が上向いたときだ。大手銀行が政府から受け取った資金を返済し、消費意欲が回復した証拠が全米のショッピングモールで見られ、株価の上昇が企業収益の伸びによって裏打ちされて初めてそうなる。

 今はまだ、そこまでではない。3月の小売業の売上高は2月より1・1%下がり、住宅差し押さえは再び増加。4月の終わりには、気落ちする経済データがどっと発表されるはずだ。人員削減や失業率の大幅な上昇が起き、「若い芽」を探す動きが再び出る。

 そして楽観的な庭師はいつも、「4月の雨は5月の花を咲かせる」と言うものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウィーワーク、再建計画を裁判所が承認 破産法脱却

ビジネス

米インフレは2%目標へ、利下げ検討は時期尚早=ダラ

ワールド

金正恩氏、超大型多連装ロケット砲発射訓練を指導=朝

ビジネス

日鉄のUSスチール買収、米国以外の規制当局がすべて
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカで増加中...導入企業が語った「効果と副作用」

  • 2

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 3

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

  • 4

    地球の水不足が深刻化...今世紀末までに世界人口の66…

  • 5

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き…

  • 6

    国立大学「学費3倍」値上げ議論の根本的な間違い...…

  • 7

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    AI自体を製品にするな=サム・アルトマン氏からスタ…

  • 10

    EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中