コラム

場所も気候も違うのに、この写真には日本の田舎と共通点がある

2018年01月12日(金)11時50分

From Natela Grigalashvili @natela_grigalashvili 

<コーカサス地方のジョージアで農村風景を撮るベテラン写真家、ナテラ・グリガラシュヴィリ。どこか懐かしさを感じるが、ロマンチック性だけが理由ではない>

彼女の写真を見ていると、懐かしい日本の風景を思い出す。場所も気候も大きく違うのに、子供の頃、お盆や正月に訪れていた父方母方それぞれの実家の地方の原風景と重なるのである。

それは、たとえ都会育ちの人でも、あるいは牧歌的な心象風景だとしても、ある種誰もが田舎に対して持っている素朴なイメージだ。

今回紹介するのは、そんな山間や農村の風景を、かつてソ連の一部であったコーカサス地方のジョージアでライフワークとして切り取っている写真家である。同国のドキュメンタリー・フォトジャーナリズムの第一人者の1人で、90年代からすでに海外でも名が知られている。現在52歳、ベテランのナテラ・グリガラシュヴィリだ。

白黒、カラーを問わず、おとぎの国の世界のような作品に貫かれているテーマは、ジョージアの田舎で暮らす人々の自然への讃歌である。あるいは、そうした人々と自然との親密な相互関係だ。

意図的にしろ無意識にしろ、我々はそうした自然との相互作用を通して、内面的な安らぎや平和を見出せるとグリガラシュヴィリは言う。同時にそれは、彼女がジョージアの田舎に惹かれ続ける大きな理由にもなっている。写真家であると同時に、コーカサスの素朴な村と自然を愛しているのである。

押し付けがましさや独りよがりな主張は、作品からはまず感じられない。1つには、光と構図がファインダーの中で巧みに操られているためだ。子供時代、グリガラシュヴィリは絵を描き、大きくなってからは映画に没頭し、とりわけドキュメンタリーフィルムに憧れた。ソ連時代に写真技術を習得して最初に得た仕事は、映像技師だった。

だが、押し付けがましさがない本当の理由は、彼女のアイデンティティーにあるのかもしれない。グリガラシュヴィリ自身、ジョージアの小さな村で生まれ育った1人なのである。だからこそ、日常の中の、それでいて極めて魅惑的な瞬間を本能的に分かっているのだろう。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story