コラム

共和党に分裂の気配、どうなる米政局

2022年07月27日(水)15時30分

24年大統領選への出馬意欲を見せているトランプ Sarah Silbiger-REUTERS

<バイデン政権の不人気から中間選挙で優勢と見られていた共和党だが......>

アメリカの政局は、まず残り3カ月強となった11月の中間選挙が注目されます。中間選挙といっても、上院の3分の1と下院の全員が改選される大規模な国政選挙です。同時に知事選、地方議会選などが重なる地区もあります。また、中間選挙が終わると、2024年の大統領選の投票までは残り2年を切ることとなり、今度は大統領選が本番を迎えます。

このアメリカの政局ですが、現在では3つの力学が働いていると考えられます。まず、1つ目はバイデン政権与党の民主党と、野党・共和党の対決です。こちらは、バイデン大統領の支持率がじわじわと低下しています。政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による世論調査の平均値では、支持が37.4%、不支持が56.8%となっており、完全に危険水域です。このバイデン不人気を受けて、中間選挙では下院は共和党が優勢、上院ももしかしたら共和党が過半数を超えるかもしれないと言われています。

2つ目は、与党である民主党内の分裂です。バイデン大統領の現在の不人気に加えて、高齢不安ということも重なって、バイデン氏では2024年は戦えないという声が、民主党内で少しずつではありますが大きくなっています。仮に、民主党内でのポスト・バイデンをめぐる争いが始まると、党内の左派と穏健派の間に激しいバトルが起きる可能性があります。

そうした党内対立は中間選挙後という見方が多かったのですが、もしかすると早まるかもしれません。7月26日に公表されたCNNの調査によれば「民主党支持者の75%は24年の大統領選はバイデン以外の候補に入れたい」と考えているそうで、かなりショッキングな数字ではあります。バイデンの不出馬宣言なども含めて、民主党内で波乱が起きる可能性も出てきました。

調査委員会で明るみになった事実

3つ目は、共和党の分裂です。共和党では、トランプ岩盤支持層が全国に有権者の15%前後はいると言われる中で、トランプ派が党を「ジャック」したような形となっていました。その結果として、「仮にトランプが2024年の大統領選に出馬するのであれば、自動的に指名される」という見方が大勢を占めていたのです。

ところが、ここへ来て「どうもそうでもない」というムードが出てきました。そのキッカケを作ったのは、議会下院が行なっている「1月6日調査委員会」の活動です。これは、前回の大統領選の直後、2021年1月6日に起きた議会乱入暴動事件について、「その際にトランプ自身がどの程度関与していたか」を調査する目的で行われています。

民主党が主導しての「党派的な政治ショー」という冷ややかな見方があったのも事実であり、また延々と行われる宣誓証言の内容も「爆弾発言」とまではいっていません。例えば、トランプ政権のメドウス主席補佐官のスタッフであった、キャシディ・ハチンソン氏の証言では、暴動が発生した際に、トランプは専用車を議会に向かうよう指示したが、周囲に止められたという内容が話題になりました。

その際の「トランプがハンドルを奪おうとした」という証言については、証拠がないので世論も政界も半信半疑です。ただ、少なくともこの証言を契機として、暴動の行われた3時間の間に、大統領を警護していたシークレットサービスが組織内でやりとりしていたテキストメッセージが「一斉に消去されていた」という事実、あるいは問題の3時間の間に、暴力を収拾するための措置を、トランプが「一切行わなかった」ことも明るみに出ています。この調査委員会と並行して行われていた公判では、トランプ政権のブレーンであった、スティーブン・バノンが議会侮辱などの罪で有罪判決を受けています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story