コラム

日本学術会議が研究成果の軍事利用に慎重になるのは当然

2020年10月15日(木)16時30分

ある技術が軍需に囲い込まれてしまうということは、次の3つの問題を生みます。

1、軍事機密の対象となり、民生品では使えなくなる。
2、競争が起きにくくなり、結果的に技術開発競争に遅れを取る可能性がある。
3、マネタイズは、自国もしくは同盟国の軍需に限定されてしまう。

仮にナノテクとか、バイオ、プログラム言語、高度の暗号化などの非常に汎用性の高い基礎領域でそれをやられてしまっては、日本の技術開発の能力は極めて限定的な「日本とその友好国の政府による軍事予算」という限られたマーケットでしか活かせないことになります。その結果として、中長期の経済成長を損なうだけでなく、日本の国家的な基盤である技術力の地盤沈下を起こす原因にもなります。

ですから、一般的に理工系の研究者が科学技術の軍事利用に慎重になるのは当たり前と言えます。

では、政府としては、どうしてそれでも技術の軍事化をやりたいのかというと、産業側にそのようなニーズがあるからです。日本の多くの産業では、人材と資金が枯渇しています。ですから、仮に汎用性の高い技術を持っていても、それを民生用の量産品に仕立てて、各国の需要を調べて世界に売り込むだけのノウハウはもうないのです。

サラリーマン社長にはそのようなリスクを取った展開をする権限はなく、また仮に実施しようとしても沈みゆく日本の金融事情の中では資金調達も思うに任せません。ですから、軍需マネーという「公共事業」の気配があれば、どうしても、そこに寄ってくるということになります。

そのようにして、オール・ジャパンの技術力が軍需に囲い込まれていくと、最終的には民生品を中心に世界の生活水準向上に貢献していた昭和以来の技術立国は終焉を迎えることになります。科学技術の軍事利用という問題については、この点を中心とした議論が必要ではないかと考えます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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