コラム

東芝経営危機が象徴する、止まらない日本の技術流出

2017年04月04日(火)15時30分

一つには心理的な問題があるようです。東芝にしても、鴻海によるシャープの買収にしても、あるいはタカタの問題についても、売却が決まったとか、売却話が出ているという報道の際に「技術が国外流出する」という懸念よりも、メディアでの扱い方としては、これで「問題が解決されてスッキリする」という安堵感の方が強く出てくるのです。

そこには「複雑なもめ事に巻き込まれて解決策が見えない」ような格好で「世間を騒がせる」ことは悪であり、これに対して「仮に海外へ売却する」のであっても、安定した解決策が見えてくることは善だという、不思議なカルチャーがあるようです。

二つ目には、複雑な技術を管理し、変化スピードの加速している国際的な環境で、こうした企業の舵取りをするのは、日本人や日本企業の体質では難しいので、外国の経営に委ねるしかないという考え方です。

サッカーのA代表の監督に外国人が招聘されるように、日本発の技術を持った会社でも経営は外国人に任せたほうが上手くいきそうだということです。

【参考記事】東芝は悪くない

三つ目は、もっと深刻な理由です。それは要するに日本サイドに破綻した企業の持っている優秀な技術を「買うカネがない」ということです。

もっと具体的に言うと、
・「国内にリスク選好マネーがない」
・「国際的な資金調達のノウハウが足りない」
・「日本円の中長期先安観がある中で、外貨建てファンナンスのリスクが取れない」
という三重苦があると考えられます。

特に「リスク選好のマネーがない」ことは大変に深刻です。日本には個人金融資産が1700兆円あると、よく言われます。それが国家債務と相殺しているため、国全体としては海外からの借金に頼る傾向が少ないことも事実です。

ですが、その1700兆円という巨額の「マネー」のほとんどは、高齢者の老後資金という位置付けになっています。つまり、リスクが取れるカネではないのです。ですから、仮に確立している技術を保有しているような場合でも、先行きの経営の舵取りによって増益になるかもしれないし、反対に大きなリスクを抱えるかもしれないようなプロジェクトには出資できないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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