コラム

「ジョブ型雇用」が成立するための3つの条件とは?

2013年06月25日(火)14時02分

 当初は「限定正社員」と言われていたものが、最近では「ジョブ型雇用」という呼称になってきているようです。確かに職務要件を明確にするという設計にするのはいい事だと思うのですが、非正規では不安定なので正社員にするが、管理職候補からは外して処遇も一段下げるし、解雇も柔軟にするという「現状の延長」のイメージで語られているのは、余りに安易だと思います。

 まず重要なのは第1の条件「雇用と教育の連動」です。職業高校、専修学校、あるいは4年制の大学、あるいは何らかの職業訓練プログラムを「あるジョブの専攻」で卒業すれば、そこで習ったことが、そのまま「即戦力のスキル」になるというシステムが回って行かなくてはなりません。

 言うのは簡単ですが、日本では理系の一部と、国家資格を要求する高度専門職「以外」では「現在は、教育と雇用の連動は機能していない」のです。その「連動」を改めて1つ1つ作り上げてゆくこと、「ジョブ型雇用」を創っていくというのはそういうことです。

 現在の日本の「働く現場」には、様々な障壁があります。例えば「各社の社内事情」のために、経理にしても営業にしても、あるいは生産管理にしても、社内コミュニケーションにしても「その会社でしか通用しない進め方」が発達してしまっている、そこを標準化してゆくことが必要です。

 大学を会計学専攻で卒業したら、そこで習ったスキルがそのまま「ジョブ」に結びつく、そのためには「グレーな節税」とか「裏帳簿とオモテの帳簿の高度な整合性をとる決算処理」など「各社バラバラの対応」を追放するようにしなくてはなりません。そうした「自己流のグレーな運用」をやっている会社に限って「コンプライアンス」の辻褄合わせを夜中までやっていたりするわけで、これでは「ジョブ型」人材の活用は難しいことになります。

 製造業の現場でも「社風や伝統に支えられた伝承」などというのはコスト高であり、いずれは行き詰まって行くと思うのです。そのコストに見合う付加価値のない仕事は、広い範囲の業界で標準的な働き方を作って、その教育は公教育の中での「即戦力養成」に期待することで「国内雇用を守る」ことになるのだと思います。

 職業教育と雇用に関しては、年齢制限を取り払うことも必要です。30歳とか40歳で「新しいキャリアに興味」が出てきた人が、20歳の若者と同じように教育が受けられ、また雇用においては年齢差別のない形でチャンスが与えられるべきでしょう。

 その場合の給与というのは、年功序列の制度を前提に「年齢別の標準生計費」がどうとかいう昭和の時代の発想ではなく正に「同一労働、同一賃金」の考え方で設計する必要があると思います。

 第2の要件は「労働市場の確立」です。現在でも中途採用という制度はあります。ですが、多くの場合は「同じ営業でも違う業種へ行く」とか「大きな会社の管理部門経験者が中小企業に転職して管理職になる」というように、「少しずらした転職」が主流になっていると思います。

 これが「ジョブ型雇用」ということになれば、その「ジョブそのもののスキル」を生かして他社で活躍できる仕組みが必要です。そうした「労働市場」がないのに「ジョブ型は階層が低い」からと簡単に解雇されてはたまったものではありません。

 そうした「同一業種、同一職種の転職」を可能にするには、転職後の守秘義務をピンポイント化する、つまり企業独自の技術やノウハウは守るような契約は可能にする一方で、「ライバルへの転職は裏切り」とか「同業他社からの人材は採らないという紳士協定」などという古い慣習はやめるべきです。そうして「学歴と職歴」が市場価値になることで、個々人には「1社にしがみつかなくてもいい」自由度を確保しなくてはならないと思います。

 そうした労働市場では勿論、年齢や性別、国籍(労働許可は必要ですが)などで差別されることがあってはならないと思います。とにかく、そのような広範で流動的な労働市場が、管理職や高度専門職だけでなく、多くの「ジョブ型」の雇用に関しても成立しなくてはなりません。

 3番目は、この「ジョブ型雇用」を通じて「ワーク・ライフ・バランス」が成立するように、また解雇権が乱用されたり、差別的な採用がされないようにして雇用を守るためには「労使の利害をオープンな場所で調整する」機関が必要だと思います。

 そのためには、職種別、職能別の組合という世界標準の制度がやはり必要と思います。組合が異常な政治力を持ってしまって既得権化し、世代間格差を放置したり、産業の競争力を奪ったりするのは問題ですが、そうならない一定の歯止めの中で、やはり企業というネバネバした共同体ではなく、職種によって企業を越えた「ヨコの連帯」をした組合という存在は必要と思います。

 こう申し上げると、この「ジョブ型雇用」を実現するには社会の様々な制度を変えていかねばならないわけで「大変だ」という印象になるかもしれません。ですが、一歩日本を離れれば、世界の主要国の主要な仕事というのは全てこの「ジョブ型」になっているのです。今後、移民を受け入れるのであれば、日本で「ジョブ型雇用」が定着している必要がありますし、日本の大学が世界的に評価されるようになるには「職業に直結している」内容へと教育内容を改めることが必要になると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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