プレスリリース

芝浦工大がフッ化カリウムから無水フッ化水素を定量的に生成するオンデマンド合成法を開発 ~新規フッ素化剤のテーラーメイド合成を実現~

2025年07月04日(金)14時00分
芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・田嶋稔樹教授(有機電気化学研究室)ら研究チームは、安全・安価なフッ化カリウム(KF)から無水フッ化水素(HF)を定量的に生成するオンデマンド合成法を開発しました。KFは最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つとして知られていますが、ほとんどの有機溶媒に難溶であることが課題となっていました。これに対し、アルカリ金属イオンとのカチオン交換能を有するAmberlyst 15DRYに着目し、KFとAmberlyst 15DRYのカチオン交換反応を利用することで、KFから無水HFを定量的に生成することに成功しました。
一方、HFは毒性、腐食性を有し、さらに室温で気体(沸点:19.5℃)であることから、特別な設備がない限りその取扱いは極めて困難でした。これに対し、本合成法では特別な設備を必要とせず、安全なKFから無水HFを必要な時に必要な場所で生成することができます。
さらに、生成した無水HFに対して種々のアミンを作用させることで、新規フッ素化剤として有望なAmine-3HF錯体のテーラーメイド合成を実現しました。これにより、従来から用いられる70%HFと30%ピリジンの混合物であるOlah's試薬やEt3N-3HF錯体と比較して、より高い反応性が期待される有機強塩基-3HF錯体などを自由自在に合成することができます。
※この研究成果は、国際学術誌Chemistry - A European Journalオンライン版に掲載されています。


■ポイント
安全・安価なフッ化カリウムから無水フッ化水素を定量的に生成
特別な設備を必要としない、無水フッ化水素のオンデマンド合成法を開発
新規フッ素化剤(Amine-3HF錯体)のテーラーメイド合成を実現

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/441304/LL_img_441304_1.jpg
図_KFから無水HFのオンデマンド合成法とそれに続くAmine-3HF錯体のテーラーメイド合成


■研究の背景
有機フッ素化合物は、医薬品、農薬、機能性材料、さらには陽電子放出断層撮影(PET)など多様な分野で利用されています。しかし、有機フッ素化合物は天然にはほとんど存在しないことから、必要に応じて合成する必要があります。これに対し、天然に存在する蛍石(主成分:CaF2)から直接生産されるHFは、最もシンプルかつ安価なフッ素化剤と位置付けられます。しかし、HFは毒性、腐食性を有し、さらに室温で気体(沸点:19.5℃)であることから、特別な設備がない限りその取扱いは極めて困難です。一方、HFと炭酸カリウムから生産されるKFは安全かつ安価であり、取扱いが容易なフッ素化剤として注目されています。しかし、KFはほとんどの有機溶媒に難溶であることから、KFの有機溶媒中での利用は困難でした。


■研究の概要
カチオン交換樹脂であるAmberlyst 15DRYが、そのスルホン酸末端のプロトンとアルカリ金属イオンを交換する性質(※水の浄化などに利用されています)に着目し、最も安全かつ安価なフッ素化剤の一つであるKFとのカチオン交換反応を利用することで、アセトニトリル(MeCN)中でKFから無水HFを定量的に生成することに成功しました。通常、KFはMeCNに対して難溶であるのに対し、カチオン交換反応がKFの溶解を劇的に促進し、KFから無水HFが定量的に生成しました。また、使用したAmberlyst 15DRYは再生可能であり、繰り返し利用可能でした。さらに、カチオン交換反応によって生成した無水HFに対して1/3当量のアミンを加えることで、新規フッ素化剤として有望な種々のAmine-3HF錯体を合成することに成功しました。


■今後の展望
本研究で得られた種々のAmine-3HF錯体は、新規フッ素化剤として医薬品、農薬、機能性材料、さらにはPET検査用分子プローブの合成などへの応用が想定されます。また、本研究で開発したKFから無水HFのオンデマンド合成法を利用することで自由自在にAmine-3HF錯体を合成できることから、目的とするフッ素化反応に適したフッ素化剤(Amine-3HF錯体)をテーラーメイドに合成可能になるものと見込まれます。これにより、新たな有機フッ素化合物への道を大きく切り拓くことが期待されます。


■論文情報
著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程2年 本間 晴香
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程修了 山田 真秀
芝浦工業大学工学部 教授 田嶋 稔樹
論文名: Quantitative Generation of HF from KF and Formation of Amine-3HF Complexes by Using Cation Exchange Reaction Between KF and Amberlyst 15DRY
掲載誌: Chemistry - A European Journal
DOI : 10.1002/chem.202500789
URL : https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.202500789


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。


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プレスリリース提供元:@Press
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