コラム

危うし、美術館!(4):MoMAとテート・モダンの迷走1

2016年03月15日(火)16時00分
危うし、美術館!(4):MoMAとテート・モダンの迷走1

3月18日、ニューヨークのメトロポリタン美術館が新しい分館、通称「Met Breuer(メット・ブロイヤー)」を開館する。

 この稿を書いている数日後の2016年3月18日、ニューヨークのメトロポリタン美術館新しい分館を開館する。バウハウスで学んだモダニズム建築家、マルセル・ブロイヤーが設計した旧ホイットニー美術館を8年間借り受けたもので、愛称は「Met Breuer(メット・ブロイヤー)」。開館前の内覧に、ニューヨーク・タイムズがふたりの花形アート批評家を送り込み、2本の記事を掲載したことからも、アート界の期待の大きさが推測される。

 その2本、つまりロバータ・スミスの「At the Met Breuer, Thinking Inside the Box」(2016年3月2日付)ホランド・コッターの「A Question Still Hanging at the Met Breuer: Why?」(同日付)を読むと、2本立ての開館記念展は一見、面白そうに思える。ひとつは(コッター曰く)「Metの多くの観客には馴染みのないであろう」インドのアーティスト、ナスリーン・モハメディ(1937-1990)の平面作品から成る個展。もうひとつは、ルネッサンスから現代に至るまでの未完成の作品を197点集めたという『Unfinished』展

The Met Breuer--Opening March 18, 2016


 だが、スミスが言うには「Metがニューヨーク近代美術館(MoMA)ホイットニー美術館に挑むのではないかと考える向きにとって、ふたつの展覧会は、期待されたように現代アートに飛び込むというより、つま先で水に触れたという程度だった」とのことだ。

 ニューヨーカーらしいというか、一言居士を自任するベテラン批評家らしいというか、よく読むとふたりの評価は辛口である。「ほとんどあらゆる点において『Unfinished』はもっと挑発的であってもよかった」(スミス)。「『Unfinished』はお行儀がよく、旧態依然たる印象。モハメディ展は先駆的だがラディカルではない」(コッター)。

 だが、展覧会の評価よりももっと厳しいのは、分館の存在理由についてだ。「Metが分館で正確には何をするのかという問いには、いまだに明瞭な答が与えられていない」(スミス)。「Metは、MoMAやホイットニーやグッゲンハイムとの現代アート収集競争というゲームの罠に嵌まってはならない」(コッター)。コッターのこの警告を受けて書いたかのように、スミスは自らの記事を以下のように締め括っている。「今日の多くの美術館キュレーターを釘付けにしているのと同じアーティストリストを追いかけているからと言って、Metを責めることはおそらくできない。少なくとも壁があることを認識できなければ、(美術館という)箱の外部を考えることは誰にもできないのだから」

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

ニュース速報

ワールド

米中は経済戦争、北朝鮮巡り軍事的解決ない─バノン氏

ワールド

米韓合同軍事演習は予定通り実施、脅威に対応=米軍制

ワールド

EU離脱交渉、10月までに「十分な進展」あると確信

ワールド

ハガティ新駐日米大使が着任、日本防衛に関与を表明

MAGAZINE

特集:2050 日本の未来予想図

2017-8・15号(8/ 8発売)

国民の40%が65歳以上の高齢者になる2050年のニッポン。迫り来る「人口大減少」はこの国の姿をどう変える?

※次号8/29号は8/22(火)発売となります。

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因

  • 2

    自分に「三人称」で語りかけるだけ! 効果的な感情コントロール法

  • 3

    英グラビアモデルを誘拐した闇の犯罪集団「ブラック・デス」とは何者か

  • 4

    「ゴースト」「ドイツの椅子」......ISISが好んだ7種…

  • 5

    韓国の文大統領、北朝鮮と米国の対立緊迫化で外交に…

  • 6

    ISIS戦闘員を虐殺する「死の天使」

  • 7

    軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出…

  • 8

    米軍に解放されたISの人質が味わった地獄

  • 9

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 10

    北朝鮮の金正恩、軍からグアム攻撃計画受ける 決定…

  • 1

    北朝鮮、グアム攻撃計画8月中旬までに策定 島根・広島・高知通過を予告

  • 2

    米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしまった

  • 3

    自分に「三人称」で語りかけるだけ! 効果的な感情コントロール法

  • 4

    軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出…

  • 5

    英グラビアモデルを誘拐した闇の犯罪集団「ブラック…

  • 6

    北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因

  • 7

    トランプ「軍事解決の準備完全」、北朝鮮「核戦争の…

  • 8

    核攻撃を生き残る方法(実際にはほとんど不可能)

  • 9

    北朝鮮巡る軍事衝突のリスク非常に高い、ロシアは回…

  • 10

    海外旅行格差から見える日本社会の深い分断

  • 1

    マライア・キャリー、激太り120キロでも気にしない!?

  • 2

    トランプに「英語を話さない」と言われた昭恵夫人、米でヒーローに

  • 3

    日本の先進国陥落は間近、人口減少を前に成功体験を捨てよ

  • 4

    ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

  • 5

    北朝鮮、グアム攻撃計画8月中旬までに策定 島根・広…

  • 6

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあ…

  • 7

    米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしま…

  • 8

    自分に「三人称」で語りかけるだけ! 効果的な感情コ…

  • 9

    対北朝鮮「戦争」までのタイムテーブル 時間ととも…

  • 10

    軍入隊希望が殺到? 金正恩「核の脅し」の過剰演出…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

全く新しい政治塾開講。あなたも、政治しちゃおう。
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!