コラム

スーパーコレクターズ(1): 億万長者の狩猟本能

2015年11月12日(木)11時50分
スーパーコレクターズ(1): 億万長者の狩猟本能

スーパーコレクター、フランスの大富豪フランソワ・ピノー Alexander Natruskin- REUTERS

 ヴェネツィア・ビエンナーレに限らず、そしてアートフェスティバルに限らず、大きな催し物には「コラテラルイベント」が付きものだ。「Collateral」と聞くと、トム・クルーズが出演した同名の映画を思い出す向きもあるかもしれないが、映画のタイトルは「不運な巻き添え」といった意味合いの名詞である。「event」の前に付けられた場合はもちろん形容詞で、「付随する」「伴って起きる」を意味する。だからコラテラルイベントは、穏便・穏当に訳すなら「同時開催イベント」であり、実質的には「相乗りイベント(幸運な巻き添え?)」ということになる。

 世界最大にして最も格の高いアートフェスティバルであるのだから、相乗りするイベントが多いのもむべなるかな。2015年には公式ガイドブックに載った、つまりビエンナーレに正式に認定されたものだけで44企画を数えた。実際には、控えめに勘定しても三桁に上るだろう。世界中から訪れるアートラバーズが対象とあって、本展と遜色のない高水準の展覧会も少なくない。2013年には、プラダ財団が主催した『態度が形になるとき:ベルン1969/ヴェニス2013』展が話題となった。半世紀近く前に、伝説的キュレーターのハラルド・ゼーマンが企画した、伝説的グループ展の再現展示である。

 近年最も注目されるコラテラルイベントは、フランスの大富豪にしてスーパーコレクター、フランソワ・ピノーのコレクションを展示するふたつの美術館、とりわけ2009年に華々しく開館したプンタ・デラ・ドガーナで開催される展覧会だろう。

タイムラプス - プンタ・デラ・ドガーナと安藤忠雄

 プンタ・デラ・ドガーナは、グランド・カナル(大運河)とジュデッカ運河が合流する地点にある岬に、17世紀後半に税関として建設された5,000平米ほどの建物。ピノーはグッゲンハイム財団との入札争いに競り勝ち、この歴史的建造物を33年間借り受ける契約をヴェネツィア市と結んだ。建築家・安藤忠雄の手になる改装には2,000万ユーロ(当時のレート換算で約27億円)を費やしたと言われるが、安藤の設計にしてはもとの建物への介入が少なく(あるいは少なく見え)、白い外壁、レンガや古材を活かしたデザインで、各界からの評判は悪くない。

01_pdd_1.JPG

プンタ・デラ・ドガーナ。2009年の開館展 (photo by Hiroko Ozaki)

02_pdd_2_sugimoto.JPG

プンタ・デラ・ドガーナ。開館展に展示された杉本博司の『Stylized Sculpture』シリーズ(壁面)とマウリツィオ・カテランの「All」 (photo by Hiroko Ozaki)

03_pdd_3_murakami.JPG

プンタ・デラ・ドガーナ。開館展に展示された村上隆の「My Lonesome Cowboy」(手前)と「Hiropon」 (photo by Hiroko Ozaki)

04_pdd_4_ando.JPG

プンタ・デラ・ドガーナのオープニングプレビューで報道陣に囲まれる安藤忠雄 (photo by Hiroko Ozaki)

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

ニュース速報

ビジネス

米12月CPIは前年比2.1%上昇 2年半ぶりの大

ビジネス

ドイツ財務省、IMF抜きのギリシャ支援準備との報道

ビジネス

米シティ、第4四半期7%増益 債券・為替取引の急拡

ビジネス

米ゴールドマン、第4四半期は大幅増益 取引量急増が

MAGAZINE

特集:トランプ・ワールドの希望なき幕開け

2017-1・24号(1/17発売)

ドナルド・トランプがついに米大統領就任へ──。「異次元の政治家」にできること、できないこと

人気ランキング

  • 1

    スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡

  • 2

    トランプごときの指示は受けない──EU首脳が誇り高く反論

  • 3

    太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下に。ソーラーが「お得」な時代へ

  • 4

    【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

  • 5

    日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差…

  • 6

    トランプ大統領就任式ボイコット続出、仕掛け人のジ…

  • 7

    ベーシックインカム、フィンランドが試験導入。国家…

  • 8

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き…

  • 9

    トランプをセクハラと中傷で提訴 テレビ番組出演の…

  • 10

    アルツハイマー治療薬を使って歯を自然再生、英研究…

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターなどSNS大炎上

  • 3

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 4

    「南シナ海の人工島封鎖なら、米国は戦争覚悟すべき…

  • 5

    オバマ、バイデン副大統領に最後のサプライズで勲章…

  • 6

    南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?

  • 7

    ダライ・ラマ制裁に苦しむ、モンゴルが切るインドカ…

  • 8

    北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺、毎年数十億円を稼ぐ

  • 9

    トランプ今度は製薬会社を標的に 薬価引き下げを表明

  • 10

    なぜアメリカの下流老人は日本の老人より幸せなのか

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

  • 4

    トルコのロシア大使が射殺される。犯人は「アレッポ…

  • 5

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターな…

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    日本の制裁措置に韓国反発 企画財政省「スワップ協…

  • 8

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 9

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 10

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本の観光がこれで変わる?
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!