コラム

中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか

2016年08月09日(火)05時44分

 こうした立場のため、劉亜州上将の発言は、習近平主席の考えを反映したものと考えらえるのだ。中国が勝てないと考えているのは、日本と言うよりも、日本の背後にいる米国であるが、日本と軍事衝突してしまうと、米国が参戦せざるを得なくなると考えている。米国との直接衝突を避けるためには、中国は、日本が自衛隊を使用しない範囲で優勢を高め、実効支配を奪い取らなければならないのだ。

 日本が自衛隊を使用する範囲には、海上警備行動の発令も含まれている。海上警備行動とは、生起した事象が海上保安庁の対応能力を超えていると判断された場合に、防衛大臣によって発令されるものであるが、自衛権の行使ではなく、あくまで治安維持のための行動である。日本政府は、これまで、1999年に能登半島沖の日本領海内で北朝鮮工作船が違法な活動を行っている懸念があった時、2004年に中国の「漢」級攻撃型原子力潜水艦が日本領海内を潜没したまま航行した時に、海上警備行動を発令している。潜水艦が潜没したまま他国領海に進入するのは、攻撃の意図があるとみなされても仕方ないのだ。また、意外なところでは、海上自衛隊が実施している「ソマリア沖海賊対処活動」も、海上警備行動に基づいている。

 中国は、「日本が海上警備行動を発令したら、軍事行動をとったものとみなす」とけん制してきた。日本が海上警備行動を発令してしまったら、中国は軍事的に対抗しなければならなくなってしまう。中国は、日本に海上警備行動を発令してもらいたくない余り、強く日本をけん制し、自らの首を絞めてしまっているとも言える。

大量の漁船を放った指導部

 今回の漁船の行動も、日中漁業協定で双方が相手国の許可を得ることなく操業が可能な海域(協定では、尖閣諸島北側)で行われていると言われ、非難自体を難しくしているのだ。しかし、今回の行動は、明らかに、中国共産党指導部の意向を受けてのものである。これまで、中国指導部は、尖閣諸島領有を主張するグループが漁船団を用いて尖閣諸島に行こうとした際に、当該グループのリーダーを軟禁する等して、出港を阻止してきた。中国指導部が阻止しようとすれば、これだけ大量の漁船が党の監視の目をくぐって出てくることは不可能なのだ。

 さらに、中国海軍も8月1日、東シナ海において、東海艦隊、北海艦隊、南海艦隊という3大艦隊が参加して、実弾演習を展開した。中国はこれまでも、東シナ海における海軍の実弾演習を、日本けん制の目的で行ってきた。

 しかし、中国の強硬で挑発的な対外姿勢は、ますますその意味を理解するのが難しくなってきた。そのような態度が、日本や東南アジアの多くの国に対中姿勢を硬化させ、結果として、中国が欲している結果を得られていない。現在の中国の対外政策は、まるで硬直しているかのようだ。

 一般的に考えれば、中国が、尖閣諸島実効支配獲得のための行動のレベルを上げ、東シナ海における緊張を高める行動に出るのは、日本が、南シナ海問題等に関して、さらに強硬な対中態度に出ていると考えているからだと言えるだろう。日本をけん制する目的だということだ。中国では、仲裁裁判所の司法判断自体に日本が関与していたと言われ、国際会議等において、日本が、中国が最も嫌がる、国際社会における「司法判断の遵守」の要求を強めていると認識されている。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

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