コラム

中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

2016年02月19日(金)07時21分
中国が西沙諸島に配備するミサイルの意味

力の誇示 昨年11月、南シナ海で米海軍原子力空母セオドア・ルーズベルトを視察したカーター米国防長官 Master Sgt. Adrian Cadiz/Department of Defense-REUTERS

 2016年2月16日、米国のメディアは、南シナ海・パラセル諸島(西沙諸島)のウッディー島(永興島)に、中国が地対空ミサイルを配備したと報じた。衛星画像で確認されたものだ。この中国のミサイル配備は、南シナ海における、米中緊張のエスカレーションの新たな段階である。南シナ海における米中間の緊張は今後とも高まり、対立は深化する。

 ウッディー島は、中国、台湾、ベトナムが領有権を主張しているが、1974年以降、西沙諸島全体を中国が実効支配している。報道された衛星画像から、ウッディー島の浜辺に、複数の車両に搭載されたミサイル発射装置やレーダーシステム等が配置されているのが確認できる。これらは、同月3日には確認されておらず、それ以降に配備された可能性が高いと見られている。

 米国防総省のアーバン報道官は「機密事項に関わる問題にはコメントできないが、われわれはこれらの問題を注視している」と述べて、中国の南シナ海における地対空ミサイルの配備に対する警戒感を露わにした。また、同月17日、ケリー米国務長官は、「深刻な懸念」を表明した上で、「今後数日の間に、中国と真剣に協議する」と述べた。

 これらは、中国の南シナ海コントロール強化の動きに対する米国の危機感を示すものだ。南シナ海は米中両国の対立が鮮明になっている海域であり、米国が警戒感を示すのは当然であるとも言える。なぜ、中国は、米中間の緊張を高める、ミサイル配備という行動に出たのだろうか?

<この筆者の人気記事>
一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国
中国軍事パレードの主たる狙いは「抗日」ではない

 実は、中国には中国の理由がある。中国は、米国の中国に対する軍事的挑発行為に対抗するために、やむなく自衛措置を採っていると言う。そもそも、南シナ海における米中間の緊張を高めているのは米国の方だ、という理屈だ。

緊張関係を表沙汰にした米国の「裏切り」

 2015年5月に、米海軍のP-8A哨戒機がCNNのテレビクリューを同乗させてスプラトリー諸島(南沙諸島)周辺を哨戒飛行し、中国の人工島建設の様子などを世界に向けて報道させて以来、南シナ海における米中の緊張関係は衆目に晒されることになった。

 このような行為は、問題を表沙汰にせず、米国と水面下で落としどころを探りたかった中国の目には、米国の挑発に映る。米国が、少なくとも南シナ海においては、中国が呼びかける米中「新型大国関係」を公然と否定してきたのだ。中国は、米中「新型大国関係」を、「米中間に問題があっても、軍事力を行使せず、議論によって問題を解決する関係」としている。「対立的共存」とも言える関係であるが、中国が自由に国益を追求しても米国が中国に対して、軍事力を行使しない関係と言い換えることもできる。そのために、問題を表沙汰にせず、両大国間で決着したいのだ。

プロフィール

小原凡司

東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャーを経て、13年1月より現職。著書に『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)がある。

筆者の過去記事はこちら

ニュース速報

ビジネス

米12月CPIは前年比2.1%上昇 2年半ぶりの大

ビジネス

ドイツ財務省、IMF抜きのギリシャ支援準備との報道

ビジネス

米シティ、第4四半期7%増益 債券・為替取引の急拡

ビジネス

米ゴールドマン、第4四半期は大幅増益 取引量急増が

MAGAZINE

特集:トランプ・ワールドの希望なき幕開け

2017-1・24号(1/17発売)

ドナルド・トランプがついに米大統領就任へ──。「異次元の政治家」にできること、できないこと

人気ランキング

  • 1

    スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡

  • 2

    トランプごときの指示は受けない──EU首脳が誇り高く反論

  • 3

    太陽光発電の発電コストが石炭火力発電以下に。ソーラーが「お得」な時代へ

  • 4

    【ダボス会議】中国が自由経済圏の救世主という不条理

  • 5

    日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差…

  • 6

    トランプ大統領就任式ボイコット続出、仕掛け人のジ…

  • 7

    ベーシックインカム、フィンランドが試験導入。国家…

  • 8

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き…

  • 9

    トランプをセクハラと中傷で提訴 テレビ番組出演の…

  • 10

    アルツハイマー治療薬を使って歯を自然再生、英研究…

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターなどSNS大炎上

  • 3

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 4

    「南シナ海の人工島封鎖なら、米国は戦争覚悟すべき…

  • 5

    オバマ、バイデン副大統領に最後のサプライズで勲章…

  • 6

    南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?

  • 7

    ダライ・ラマ制裁に苦しむ、モンゴルが切るインドカ…

  • 8

    北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺、毎年数十億円を稼ぐ

  • 9

    トランプ今度は製薬会社を標的に 薬価引き下げを表明

  • 10

    なぜアメリカの下流老人は日本の老人より幸せなのか

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

  • 4

    トルコのロシア大使が射殺される。犯人は「アレッポ…

  • 5

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターな…

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    日本の制裁措置に韓国反発 企画財政省「スワップ協…

  • 8

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 9

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 10

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本の観光がこれで変わる?
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!