コラム

日本経済はいつ完全雇用を達成するのか

2016年12月05日(月)12時50分

2018年には完全雇用に到着?

 本稿冒頭で述べたように、筆者は、日本経済はその完全雇用に2018年頃には到達できると考えている。その根拠はきわめて単純であり、2013年からの雇用改善ペースをそのまま延長すれば、2年後の2018年には「本来のフィリップスカーブ」が示す完全雇用失業率である「2%半ば」にたどり着くからである。

 2013年の年平均の完全失業率は約4%であったが、2014年にそれは約3.6%にまで低下した。つまり、その1年間の雇用改善率は0.4%ポイントであった。また2015年の年平均の完全失業率は約3.35%であったから、前年からの雇用改善率は0.25%ポイントであった。2014年から2015年までに、あの消費増税ショックにもかかわらずそれだけの雇用改善を成し遂げたということは、この0.25%はかなり保守的な数字と考えてよいであろう。この雇用改善ペースが今後2年間続くとすれば、2018年の失業率は、現在の3%から2%半ばにまで低下していることになる。

 ただし、このシナリオが実現されるためには、いくつかの前提条件が必要である。その第一は、これからの2年間に、この雇用改善モメンタムを根本から覆すようなネガティブなショックは起きないということである。

 2016年11月に生じた米大統領選でのトランプの予想外の勝利という「トランプ・ショック」は、事前の想定を裏切って、幸いにも日本経済に円安と株高をもたらすポジティブなショックとなった。しかし、次に現れるショックが同様なものである保証はない。

【参考記事】トランプで世界経済はどうなるのか 2016.11.18

 第二は、たとえば完全雇用失業率を高く見積もり過ぎるなどによって、日銀が先走った金融引き締めをしないということである。

 福井俊彦総裁時代の日銀は、2006年9月に、それまで5年超続いた量的緩和政策を解除したが、その時の日本の失業率は4.2%であった。これは、黒田日銀が異次元量的緩和を開始した2013年4月時点での失業率にほぼ等しい。さらに恐るべきことに、速水優総裁時代の日銀がゼロ金利政策を解除した2000年8月の失業率は、4.6%であった。黒田以前の日銀が、いかに「何も考えずにただひたすら金融引き締めに邁進した」のかがわかる。

 もっとも、現在の黒田日銀には、そのような失敗を再び繰り返す恐れはほとんどない。というのは、2016年9月21日の金融政策決定会合で新たに導入されたオーバーシュート型コミットメントによって、「実際に2%インフレ率が実現されるまでは金融緩和を維持し続ける」ことが約束されているからである。これは要するに、「日銀は完全雇用が達成されないうちからインフレ率の上ぶれを恐れて金融引き締めに転じるようなことはしない」という意味であり、速水日銀や福井日銀の二の舞はしないという約束なのである。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

介入有無にはコメントせず、政府関係者が話した事実な

ビジネス

3月実質賃金2.5%減、24カ月連続マイナス 減少

ワールド

EU、ロシア凍結資産活用で合意 利子でウクライナ軍

ワールド

香港民主派デモ曲、裁判所が政府の全面禁止申請認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story