最新記事
シリーズ日本再発見

技能実習制度の適正化が10年後の日本経済を潤す源泉に?

2017年01月20日(金)14時40分
長嶺超輝(ライター)

7postman-iStock.

<2016年11月に公布された技能実習法。問題の多かった技能実習制度を適正化することを目的とした新法だが、一見無関係な観光産業にも影響を及ぼすかもしれない>

【シリーズ】日本の観光がこれで変わる?

 日本を訪れた外国人観光客の一部は、東京や大阪などの大都市をめぐって驚いているかもしれない。日本は移民社会ではなく、外国から単純労働者を受け入れていないと聞いていたのに、お店やレストランでは外国人がたくさん働いているじゃないか、と。

 だが、実はそんな観光客が接点をもたない産業の現場には、さらに多くの外国人労働者が存在している。いわゆる技能実習生たちだ。

「技能実習生」という言葉を目にしたところで、ピンとこない人も少なくないだろう。

 技能実習制度は、日本国内のさまざまな業界における技能を外国人が修得することによって、発展途上地域への技術移転を図り、先進国としての国際的責任を果たすことを目的とした制度だ。外国人が実際に職場で働くことを通じて、日本独自の技術や企業文化などを修得してもらい、ゆくゆくは母国でその技能が活用されていくことを目指す。日本政府としては、国際貢献ならびに多国間交流を働きかけたいのである。

 ただし、技能実習制度をめぐっては、こうした法令上の建て前と、現場の本音とが食い違っている。

 当の来日外国人は、多くの場合、物価の高い日本で稼いだお金を母国に持ち帰りたいがために技能実習生になろうとする。その実態において、大半は出稼ぎ目的である。

 一方、技能実習生を受け入れる国内の労働現場では「労働力不足の解消」が主な目的に据えられている。なかには、労働基準法や最低賃金法といった労働法規を無視して、技能実習生を「安価な労働力」として乱用してきた現場もあると、これまで報じられてきた。外国人の失踪や過労死、あるいは会社を相手取っての提訴など、さまざまなトラブルが発生しているという。

 長時間労働や残業代未払いの横行する「ブラック企業」がマスメディアで大きく取り上げられ、社会的な責任が問われているが、一部の技能実習生が置かれている苛烈な労働環境についてはどうなのか。

 日本人だけでなく、外国人の労働問題も見過ごしていいわけではない。技能実習生をめぐる労働環境を早急に改善させなければ、中長期的なレベルで、日本社会にじわじわとダメージが蓄積されることになるだろう。

【参考記事】日本の会社はなぜ「ブラック企業」になるのか

 技能実習生のほとんどはアジア系の外国人で占められている。つい数年前まで中国籍が大半だったが、ここにきて急増しているのはベトナム国籍の実習生である。2015年には中国人を人数・割合ともに追い抜いて最多となった(「研修・技能実習に関するJITCO業務統計」より)。ちなみに、日本国内に滞在する技能実習生は約21万人にものぼる(2016年6月末現在)。

 その技能実習生たちが母国へ帰ったとき、日本という国のことを家族や友人にどう説明するだろうか。その説明を起点とする噂話の拡散によって、日本の国際的なイメージはいかようにも変化する。観光立国を目指す日本にとって、イメージの悪化は死活問題だ。

【参考記事】【動画】外国人を(嵐よりも)魅了するサムライ集団「TAO」って何者?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中