コラム

ハッカニ・ネットワークが再び表舞台に

2011年10月03日(月)18時09分

 9月13日にアフガニスタンの首都カブールにある米大使館で発生したテロ攻撃を始め、米軍やホテルを狙った最近のテロ攻撃の犯行グループとみられている武装勢力ハッカニ・ネットワーク。米政府は現在、パキスタンの北ワジリスタンに拠点を置くこの集団をテロ組織に指定しようとしており(同組織の幹部は個別にテロリスト指定されている)、注目度が高まっている。

 ハッカニ・ネットワークは、80年代にアフガニスタンを侵攻したソ連軍と戦ったアフガン人ジャラルディン・ハッカニと息子シラジュディンが率いる。当時はCIA(米中央情報局)からの支援を受けていたが、今ではパキスタン軍や武装勢力タリバンと密につながり、アフガニスタンで最も危険な勢力だと見られている。

 今、ハッカニのテロ組織指定をめぐり、ビンラディン殺害以降かつてないほど険悪になっているパキスタンとアメリカの関係がさらに悪化している。

 まもなく退官する予定のマレン米統合参謀本部議長は、大使館テロ攻撃などを「ISI(パキスタン軍の情報機関)の支援を受けたハッカニの工作員が計画し、実行した」と発言。一方でパキスタンのヒナ外相は、「ハッカニ・ネットワークは長らくCIAの『秘蔵子』だった」とやり返した。

 米政府は何年もの間、アフガニスタンで繰り返し大規模テロを繰り返すこの組織を攻撃するよう再三パキスタン政府に働きかけてきたが、実行されることはなかった。ハッカニ・ネットワークのメンバーたちは「パキスタン軍とは停戦しているから軍からの攻撃は心配ない」と、北ワジリスタンで自由に動き回っている。ニューヨークタイムズ紙は、ハッカニ・ネットワークが誘拐や強奪などで犯罪帝国を築き上げ、「アメリカからの復興支援金で道路や学校をつくる会社などから用心棒代を要求している」と書いている。

 パキスタン軍のキヤニ統合参謀長は軍幹部と緊急の会議を開き、ハッカニ・ネットワークを攻撃しないと改めて確認、真っ向からアメリカの圧力を突っぱねた。表向きの理由は軍にその余力が残っていないというものだが、パキスタンはアフガニスタンの情勢をコントロールするのにハッカニ・ネットワークを手放すつもりはない。

――編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チリ大統領選で右派カスト氏勝利、不法移民追放など掲

ワールド

ボルソナロ氏の刑期短縮法案に反対、ブラジル各地で抗

ビジネス

26年度賃上げスタンス、大半の支店で前年度並みとの

ワールド

米ブラウン大銃撃、拘束の「重要参考人」釈放へ 事件
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story