コラム

史上初の米下院議長解任は「同担拒否」の結果...解任劇に見るトランプ支持者の近親憎悪

2023年10月05日(木)14時00分
ケビン・マッカーシー下院議長

解任動議が可決されたマッカーシー下院議長(10月3日) REUTERS/Jonathan Ernst TPX IMAGES OF THE DAY

<下院議長が解任されるのは建国以来初めてのこと。背景に何が>


・アメリカ連邦議会下院で共和党のマッカーシー議長は、共和党員が提出した動議で解任された。

・マッカーシー議長はトランプ元大統領に近いことで知られてきたが、解任動議を出した議員グループもトランプ支持者だった。

・この解任劇はトランプ支持者同士の近親憎悪、あるいはいわゆる「同担拒否」による潰し合いとみられる。

連邦議会下院でケビン・マッカーシー議長が解任された最大の要因は、トランプ支持者の内部分裂といえる。

史上初の下院議長解任

アメリカの連邦議会下院で10月3日、ケビン・マッカーシー議長に対する解任動議が審議され、216対210の賛成多数で可決した。

下院議長が解任されるのは建国以来初めてだ。

昨年の中間選挙で下院の過半数は共和党が握り、同党のベテラン議員マッカーシーが議長に選出された。ただし、議席数では民主党に対して221対212とかろうじて優位に立っているに過ぎない。

今回の解任動議は、共和党議員の一部が提出したものだ。彼らが賛成票を投じ、これに民主党議員が呼応したことで、動議は可決された。

マッカーシーにしてみれば「身内」の離反で議長職を追われたことになる。

解任後、マッカーシーは立場の近い議員らとの会合で、議長職に再チャレンジする意思はないと表明した。

しかし、共和党のパトリック・マクヘンリー議員が臨時議長に就任したものの、多くの支持を集められる有力候補がいないために議長再任は難航すると見込まれている。

「個人攻撃だ」

史上初の下院議長解任はなぜ起こったか。一言でいえば、トランプ支持者同士の近親憎悪、あるいはいわゆる「同担拒否」による潰し合いの結果といえる。

もともとマッカーシーは2016年大統領選挙でドナルド・トランプが登場した際、いち早く支持を表明した有力議員の一人だ。

そのマッカーシーは解任直後、「これは個人攻撃だ。無駄以外の何物でもない」と語った。そこで念頭に置かれていたのは、マッカーシー解任の中心にいた共和党のマット・ゲーツ議員とみられている。

ゲーツはトランプ支持者という意味ではマッカーシーと同じだ。どちらも移民・難民反対、同性婚・中絶反対、保護貿易賛成などでは一致しており、さらにバイデン政権による膨大なウクライナ支援に「アメリカ第一」の観点から反対してきた点でも共通する。

ゲーツの場合、2021年以降もトランプ支持の集会'America First Tour'に積極的に出席し続けている。2020年大統領選挙での「選挙の不正」を叫ぶトランプ支持者が連邦議会を占拠した後、それまでトランプ人気に便乗していた多くの共和党議員はトランプと距離を置くようになったのとは対照的だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 6
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story