コラム

アフガニスタン全土の制圧に向かうタリバン──女子教育は再び規制されるか

2021年08月15日(日)18時25分
アフガニスタン女性

定着しつつあった女子教育は再び抑圧されるのか(写真は2020年4月21日、コロナ禍に小麦粉の配給に並ぶアフガン女性) REUTERS/Stringer


・米軍の撤退と入れ違いに、タリバンはアフガニスタン全土で攻勢に出ている。

・アフガン軍がこれを食い止めることはほぼ不可能で、タリバンは遅かれ早かれ政権を獲得するとみられる。

・その場合、かつてのような厳格なイスラーム支配の復活への懸念もあるが、タリバンがより現実的な方針に転換する兆候もうかがえる。

米国の撤退に合わせて、タリバンはアフガニスタン全土で猛攻を続けている。タリバン支配が復活すれば、かつてのように女の子が教育を受ける権利を制限されるのだろうか。

「名誉ある撤退」の影で

バイデン大統領は10日、「アフガニスタン撤退を決めたことを後悔していない」と発言した。昨年3月のタリバンとの合意に沿って、米軍や北大西洋条約機構(NATO)加盟国の軍隊がアフガン撤退を進めるなか、タリバンが9日までに34州のうち8州の州都を制圧し、首都カブールにまで迫るなかでの発言だった。

米軍やNATOが我先に撤退するなか、遅かれ早かれアフガン全土がタリバンの掌中に収まることは避けられないとみられる。

アメリカを後ろ盾としてきたアフガニスタン政府は、形式的には民主的な選挙を経ていても、内実は有力者の縁故や汚職がはびこっている。アフガニスタン軍もほぼ同様で、退役軍人の年金すらまともに支給されないためモラルや士気が低く、タリバンを食い止めるのはほぼ不可能だ。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに始まったアフガニスタン侵攻はアメリカ最長の戦争とも呼ばれ、その駐留経費と兵員の犠牲はアメリカの大きな負担になってきた。アメリカにとって撤退は事実上の敗北に他ならないが、「名誉ある撤退」を望むバイデンにとって「米軍撤退がタリバン猛攻のきっかけになった」とは認めたくないだろう。

女性にとっての暗黒時代

タリバンが急速に支配地域を広げるにつれ、懸念されている問題の一つが人権侵害、とりわけ女性の権利の制約だ。

冷戦終結後に登場したタリバンは1996年に首都カブールを制圧し、2001年に米軍に追われるまで、国土のほとんどを支配した。その間、アフガンでは現代的な人権の多くが規制された。

聖典コーランの教えに従い、飲酒やタバコ、音楽、偶像崇拝に通じかねないTVなどが禁じられただけでなく、女性の就労・就学も規制された。これは「女性は慎み深くすること」というコーランの記述を、極めて厳格に解釈したものだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

債務残高の伸び、成長率の範囲内に抑え信認確保=高市

ワールド

UPSの航空輸送拠点閉鎖、世界的な配送に遅延発生へ

ワールド

米、40空港で運航10%削減へ 政府機関閉鎖で運営

ビジネス

実質賃金9月は1.4%減 9カ月連続マイナス ボー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story