コラム

トランプ政権を支える陰謀論「QAnon」とは何か

2018年08月06日(月)15時08分

自分の野球帽と赤ん坊のシャツに「QAnon」のロゴを描いたトランプ支持者(8月3日、ペンシルベニア州ウィルクスバリで行われたトランプの集会) Leah Millis-REUTERS

<アメリカに新たな陰謀論が生まれた。陰謀説を説くのは、匿名のネット投稿者「Q」。Qと支持者の勢力は「QAnon(Qアノン)」。ひょっとすると11月の中間選挙をも左右しかねない>

「月面着陸はなかった」「ユダヤ人が世界を陰で操っている」など、数々のデマをまことしやかに拡散してきたアメリカの陰謀論の歴史に今、新たな一章が加わろうとしている。

「Q」と名乗る匿名の書き手によるネット投稿が、中間選挙に向けてトランプ支持者の熱狂的支持を集め始めている。8月1日にフロリダ州で行われたトランプ氏の支持者集会のTV中継では、「我々はQだ(We are Q)」と書いたボードも映し出された。

Qの主張はトランプ支持だが、それとともに根拠の確認できない話、自分たち以外の人間に対する敵意、さらに神がかり的な物言いなど、陰謀説としての特徴も鮮明だ。

(QAnonのプロパガンダビデオ:レーガン以降の大統領はすべて犯罪者、戦争や貧困などの厄災はすべて、歴代大統領やハリウッドセレブ、CIAや大企業のせいだ)


例えばQによると、「いわゆるロシア疑惑を調査しているムラー特別検察官は、実は民主党とロシアの関係を暴くため、トランプ大統領によって任命された」となる。トランプ氏は無実であるばかりか、民主党とロシアの共謀を明るみに出そうとしているのだが、彼らの共犯者である大手メディアやエリート層にそれを妨害されている受難者なのだ、という。

こうした陰謀説がトランプ支持者を引き付ける現状は、トランプ政権の体質を物語る。

QAnonの主張とは

正体不明のQを中心とする勢力を、メディアは「匿名(Anonymous、アノニマス)」の略記「Anon」と組み合わせて「QAnon(キューエーノン)」と名付けている。

Qは2017年10月、アメリカの掲示板サイト4chan(日本の2ちゃんねるにあたる)など複数のサイトに記事を掲載し始めた。トランプを支持しているという以外は、真偽を確かめようがない内容が多い。以下はその例だ。


・ムラー特別検察官の「本当の標的」は、オバマ氏やクリントン氏ら民主党関係者だけでなく、ジョン・マケイン上院議員などトランプ氏に批判的な共和党関係者や俳優トム・ハンクス氏などハリウッド関係者も含まれる。

・これら「本当の標的」は皆、小児性愛者サークルのメンバーで、居場所を特定されるモニター機器を既にトランプ政権によって取り付けられている。

・連邦政府の活動を監督する監察総監室(OIG)は、2016年大統領選挙における民主党関係者の犯罪行為をまとめた報告書を隠蔽している。

・これら「腐ったエリート」を一掃するため、軍はトランプ氏に2016年大統領選挙への立候補を要請した(QAnonは議会や司法には強い不信感を持っているが、軍には好意的)

・ムラー特別検察官の「本当の目的」が政敵に気づかれないよう、トランプ氏は「追及されるふり」をしているだけ。

「本当は」「実は」と、まことしやかに説明しているが、客観的な根拠が示されないまま、特定の政敵に全責任を負わせるストーリー。それに沿って事実が都合よく配置されている。この点において、QAnonの主張は「月面着陸はなかった」説や「ユダヤの陰謀」説と変らない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story