「保守王国」の権力腐敗を映し出す、映画『裸のムラ』と馳知事の場外乱闘
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<テーマは保守王国・石川県の議会における同調圧力と権力への忖度、そして男尊女卑。この作品に映し出される県議会の姿は、半世紀以上も自民党一強時代が続く戦後日本の縮図だ>
今年1月1日、就任1年目の馳浩・石川県知事は日本武道館で開催されたプロレスイベントに参加した。現職の知事がレスラーとしてリングに上がる。ニュースバリューは大きい。北陸放送や北陸朝日放送など地元の民放各局はこの映像をニュース枠で放送したが、石川テレビだけはこの映像を流していない。馳が映像提供を許可しなかったのだ。
なぜ馳は石川テレビだけを除外したのか。同社が2022年に製作・公開したドキュメンタリー映画『裸のムラ』を問題視したからだ。
この映画の監督は、富山県のローカル局であるチューリップテレビ報道部に在籍し、富山市議会の腐敗を描いたドキュメンタリー映画『はりぼて』(20年)で注目された五百旗頭(いおきべ)幸男だ。その後に石川テレビに移った五百旗頭は、22年3月の県知事選をメインの舞台にしながら、谷本正憲前知事や馳、県選出の衆院議員だった森喜朗元首相を取り巻く人々を描いた『裸のムラ』を監督した。前作と同様に、テレビドキュメンタリーからのスピンオフだ。
『裸のムラ』のテーマは保守王国・石川県の議会における同調圧力と権力への忖度、そして男尊女卑だ。テレビ版と同様に、県庁での記者会見や県議会の議場で撮影された映像も使われている。
今年1月末の知事定例会見で馳は、この映画が自身や県職員の映像を無断で使用していることが肖像権の侵害に当たると主張し、石川テレビの社長が定例会見に出席して自身の質問に答えるように要求した。これに対して石川テレビは、「(映画は)報道の一環であって、公共性、公益性に鑑みて、特段の許諾は必要ない」とする見解を発表し、政治家が主催する記者会見の場に要請に応じて社長が出席することを拒否した。
この判断は正しい。メディア企業における社長は経営の代表であって、制作や報道と一線を引くことは当然だ。そもそもこうした要請そのものが政治的な圧力だ。土俵に乗るべきではない。しかし馳は納得しない。ついには公約だった毎月の定例会見を中止した。明らかに他局までも巻き込んだ嫌がらせだ。
公務中の公務員の肖像権は制限される。それは大前提。そのくらいは馳も分かっているはずだ。だからテレビで放送されたときには抗議などしていない。ならばなぜ今回は抗議したのか。その理由を馳は、商業映画に使うのなら許可を取るべきだと主張しているが、そもそもテレビ各局は営利企業だ。報道番組にもスポンサーはついている。映画だけを商業的だと特別視する理由は全く理不尽だ。難癖の口実を探していたことは明らかだろう。
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