コラム

「保守王国」の権力腐敗を映し出す、映画『裸のムラ』と馳知事の場外乱闘

2023年05月25日(木)15時55分
『裸のムラ』

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<テーマは保守王国・石川県の議会における同調圧力と権力への忖度、そして男尊女卑。この作品に映し出される県議会の姿は、半世紀以上も自民党一強時代が続く戦後日本の縮図だ>

今年1月1日、就任1年目の馳浩・石川県知事は日本武道館で開催されたプロレスイベントに参加した。現職の知事がレスラーとしてリングに上がる。ニュースバリューは大きい。北陸放送や北陸朝日放送など地元の民放各局はこの映像をニュース枠で放送したが、石川テレビだけはこの映像を流していない。馳が映像提供を許可しなかったのだ。

なぜ馳は石川テレビだけを除外したのか。同社が2022年に製作・公開したドキュメンタリー映画『裸のムラ』を問題視したからだ。

この映画の監督は、富山県のローカル局であるチューリップテレビ報道部に在籍し、富山市議会の腐敗を描いたドキュメンタリー映画『はりぼて』(20年)で注目された五百旗頭(いおきべ)幸男だ。その後に石川テレビに移った五百旗頭は、22年3月の県知事選をメインの舞台にしながら、谷本正憲前知事や馳、県選出の衆院議員だった森喜朗元首相を取り巻く人々を描いた『裸のムラ』を監督した。前作と同様に、テレビドキュメンタリーからのスピンオフだ。

『裸のムラ』のテーマは保守王国・石川県の議会における同調圧力と権力への忖度、そして男尊女卑だ。テレビ版と同様に、県庁での記者会見や県議会の議場で撮影された映像も使われている。

今年1月末の知事定例会見で馳は、この映画が自身や県職員の映像を無断で使用していることが肖像権の侵害に当たると主張し、石川テレビの社長が定例会見に出席して自身の質問に答えるように要求した。これに対して石川テレビは、「(映画は)報道の一環であって、公共性、公益性に鑑みて、特段の許諾は必要ない」とする見解を発表し、政治家が主催する記者会見の場に要請に応じて社長が出席することを拒否した。

この判断は正しい。メディア企業における社長は経営の代表であって、制作や報道と一線を引くことは当然だ。そもそもこうした要請そのものが政治的な圧力だ。土俵に乗るべきではない。しかし馳は納得しない。ついには公約だった毎月の定例会見を中止した。明らかに他局までも巻き込んだ嫌がらせだ。

公務中の公務員の肖像権は制限される。それは大前提。そのくらいは馳も分かっているはずだ。だからテレビで放送されたときには抗議などしていない。ならばなぜ今回は抗議したのか。その理由を馳は、商業映画に使うのなら許可を取るべきだと主張しているが、そもそもテレビ各局は営利企業だ。報道番組にもスポンサーはついている。映画だけを商業的だと特別視する理由は全く理不尽だ。難癖の口実を探していたことは明らかだろう。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UAE大統領が訪日延期、現地情勢の推移踏まえ=官房

ビジネス

日銀、1月31日までに保有ETFの売却を開始 53

ビジネス

円安、マイナス面ある一方で輸出企業の収益改善 首相

ビジネス

米パランティア、政府契約で増収 監視技術を擁護 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story