コラム

シャープを危機から救うのは誰か

2016年02月22日(月)17時00分

 2011年に東日本大震災と福島第一原発の事故が起き、日本でにわかに太陽光発電への注目度が高まりました。地方の首長選挙で、候補者が太陽電池パネルを担いで回り、当選したら太陽光発電を拡大するから自分に投票してくれとアピールする場面もありました。再び日本市場に火がつくチャンスが巡ってきたのです。しかし、業界のリーダーであるシャープが太陽光発電の普及拡大を世間にアピールするのかと思いきや、このときもまったく消極的でした。

 また、テレビの画面がブラウン管から液晶やプラズマディスプレイに切り替わろうとしていた2000年代半ば、当時すでに世界の電機産業では液晶パネルのような基幹部品と、テレビのような完成品とを別々の企業が分業する構造が一般的になっていました。ところが、シャープは時代の趨勢と逆行するかのように、液晶とテレビの一貫生産をアピールする戦略をとりました。基幹部品を囲い込むことで最終製品を差別化するという戦略は様々な産業でみられるもので、一般的には決して悪い戦略ではありません。

経営に長けたパートナーが必要

 しかし、最近の電機製品の場合、映像などの信号をデジタル処理しますので、基幹部品の違いを中和してしまうことが可能です。すぐれた液晶パネルを搭載しているのは当社のテレビだけですとアピールしても、消費者が感じとれるような差異がほとんどありません。液晶テレビの垂直統合戦略をとるなど液晶に過度に投資したことが結局命取りになりました。

 驚いたのはシャープが2010年に発売したタブレット端末を「ガラパゴス」と名付けたことです。当時はまだ「ガラケー」という言葉は定着していなかったとは思いますが、電機産業の研究者の間で、日本の電機産業の国内志向が強まっていることを批判する意味で「ガラパゴス化」という言葉がすでに使われていました。そういうことを知らないはずがないのに敢えて「ガラパゴス」と名付けるとは、開き直っているのかケンカを売っているとしか思えませんでした。

【参考記事】日本経済の成長には「ホリエモン」が必要だ

 以上のいくつかの事例を見ても、シャープは個々には優れた製品開発力を見せてきたものの、経営判断の誤りを積み重ねたことで今日の苦境を招いてしまったのだと思います。こうなったら、思い切った経営の革新を行うしかありません。そう考えると身売り先として鴻海以上に理想的なパートナーはいないように思います。2015年3月時点で自己資本が300億円しか残っていない企業に7000億円も出すというのですから、シャープからそれだけの価値を引き出す戦略を持っているに違いありません。

 もちろん鴻海がうまくシャープとのシナジーを作りだせない可能性もあります。鴻海を選ぶことはシャープにとって大きな賭けであると同時に、鴻海にとっても複合的なブランド企業の経営という、これまで未経験の事業に乗り出すわけですからやはり大きな賭けです。しかし、崖っぷちまで追い詰められたシャープの財務諸表の数字をみるにつけ、もはや思い切った賭けに出る以外に道はないように思えます。

<筆者の過去記事はこちら>

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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