コラム

家具のニトリがユニクロを凌駕するアパレルの雄に?

2017年02月10日(金)06時30分

http://www.nitori.co.jp/より

<30期連続の増収増益を目指しているニトリが、アパレルチェーンへの参入を検討している。異業種への展開は難易度が高いが、同社の強みと戦略を分析すると、十分に勝算はある>

2月3日、ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は、家具やインテリアに続く挑戦として、アパレルチェーンへの参入を検討していることをブルームバーグとのインタビューで明らかにした。

今期に上場以来30期連続の増収増益達成を目指しているニトリは、最近では、東京の銀座・新宿・中目黒など都市部での出店を加速させている。同社への注目の高さもあって、このインタビューはヤフーニュース等のトップ記事としても掲載された。

しかし、異業種への展開は、経営戦略の理論と実践においては難易度が高いものとされ、株式市場でも通常は売りシグナルとなることが多い。ニトリのアパレル参入は果たして成功するのだろうか。

結論からいえば、同社のアパレルチェーン展開は成功確率が高いものと評価できるというのが筆者の見方である。

それはなぜか。筆者が専門とするストラテジー&マーケティングの観点から、ニトリの強みと戦略を分析していこう。

「2032年までに3000店舗」のビジョンのもとに

似鳥会長は、アパレルに参入する場合には既存の家具店舗網を活用するのでなくM&Aを通じて100~200店舗規模の衣料品チェーンを買収し商品を入れ替えていくことを想定していると述べている。

これに対して野村證券のアナリストは、既存家具店舗から独立した形で買収によってアパレルチェーンに参入することには違和感があるとコメントしている。まさに経営戦略や株式市場の理論と実践に沿った正攻法的なコメントと言えるだろう。

もっとも、既存家具店舗内でアパレル展開するのではなく同事業とは独立した形で最初からチェーン展開を目指すというところに、似鳥会長の狙いや戦略が凝縮されていると評価するべきだろう。

ニトリでは、「ロマン」として、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」ことを掲げて経営を行っている。この「ロマン」とは経営用語に置き換えると「ミッション」(企業の使命や存在意義)のことである。「ロマン」と表記しているところに、似鳥会長の事業に対する哲学やこだわりが表現されていることを感じるものだ。

そして、ニトリでは、「ビジョン」(長期的な目標)としては、「第2期30年ビジョン(2003~2032年):3,000店舗、売上高3兆円」を掲げている。「第1期30年ビジョン(1973~2002年):100店舗、売上高1,000億円」を2003年に実現し、上場以来29期連続で増収増益を続けてきている似鳥会長にとって、このビジョンは極めて重要なものとされている。

実際に同社では、この「第2期30年ビジョン」を支える経営戦略として、「2013年~2022年10ヵ年テーマ:グローバル化と事業領域の拡大」を掲げている。「事業領域の拡大」について詳細な計画はこれまで提示されてこなかったが、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」という「ロマン」に貢献し、自社の強みが発揮できる事業分野であれば積極的に挑戦していくことは再三述べてきたことなのだ。

つまりは、今回の似鳥会長のアパレル参入についての発言は、このような狙いと戦略のもとで、水面下で進められてきている事業計画に基づくものと捉えるべきであろう。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ワールド

〔アングル〕長期金利2%接近、日銀は機動対応に距離

ワールド

ウクライナ、モスクワ州など大規模ドローン攻撃 ロシ

ワールド

トランプ氏、対ロ大規模投資と欧州へのエネ供給回復計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story