コラム

アパホテル抗議デモの舞台裏、どんな人たちが参加したのか

2017年02月13日(月)22時23分

ただし、喜べない出来事もあった。第一に、現場では少なからぬヘイトスピーチがあったことだ。カウンターのデモも意見表明の権利だ。プラカードを掲げたり、日章旗を振るなど、静かに意見を表明した抗議者も少なくない。その一方で拡声器を使って「支那人」「ちゃんころ」「出て行け」などの暴言が響き渡っていたのも事実。その姿は中国メディアのみならず、BBCなどの大手海外メディアによって全世界に報じられた。

デモの参加者たちは「抗議者のおかげで私たちのデモの注目度は高まったのでは」とメリットも感じていたが、現・日本人の私にとっては恥ずかしい出来事だった。

またネットの一部では参加者の身元を特定し、つるし上げようとする動きもあるようだ。参加者の大半はマスクをして身元を隠していたが、それでも恐れていたことが現実に起きている。

さらにデモ実施前のことだが、学校で知人をデモに誘っていた留学生が退学させられるという話もあったと聞く。学校側の説明は「政治活動は関係ない、出席率が不足しているからだ」というものらしいが、その学生より低い出席率で退学になっていない学生は他にいるし、学期途中での突然の退学処分は不自然極まりない。学校側はトラブルになることを恐れたようだが、デモ参加を理由に退学させるなどとんでもない話ではないか。(※)

言論の自由、集会の自由が保障されているのが近代民主主義の国である。ごく一部の動きとはいえ、こうした嫌がらせによって外国人の間に「日本にはちゃんとした民主主義はないのだな」とのイメージが広がるとすれば、あまりにも残念だ。

さまざまな意見があるが、それでも互いを尊重するのが民主主義だ。卑劣な手段で弱い相手を吊し上げることは言論の自由ではない。デモの参加者も中国のメディア人も、日本当局がデモの許可を与え、万全の警備で守ったことを高く評価している。多様な意見を受け入れられる民主主義の国・日本、このことに私たちは誇りを持つべきだろう。

※本コラム掲載の翌日、学校側から留学生本人に連絡があり、勉強の意思があるならば退学を取り消し、入国管理局にも復学を報告すると言われたと、この留学生から連絡があった。もしも本コラムが役立ったのなら嬉しく思う。(2017年2月14日)

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story