コラム

アパホテル抗議デモの舞台裏、どんな人たちが参加したのか

2017年02月13日(月)22時23分

Newsweek Japan

<2月5日に東京・新宿で行われた在日中国人によるデモは、在日中国人による初めての「対日本」のデモだった。民主主義の初心者を受け入れた日本は素晴らしかった>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。今回は2月5日に行われた、在日中国人によるアパホテル抗議デモについて書きたい。

デモに関する記事はすでに数多く発表されているが、勘違いや的を外した内容も少なくない。私がお伝えしたいのは、デモに参加したのがどんな人たちで、彼らが何を思ってデモを行ったのかということだ。

デモの発起人はAさんという女性で、来日10年になる中国人だ。この間、尖閣諸島沖漁船衝突事故や安倍晋三首相の靖国神社参拝など、日中間にはさまざまな"事件"があったが、彼女はあまり関心がなく、これまで政治活動に参加することはなかったという。それが今回、なぜデモを企画したのか。

きっかけはテレビ番組でアパグループの元谷外志雄代表のインタビューを見たことだった。「日本人はみんなアパグループを応援している」と豪語する言葉に怒りを覚え、在日中国人が強く反発していることを示す必要があると思い立ったと話している。

【参考記事】アパホテル炎上事件は謝罪しなければ終わらない

同志を求めてインターネットや口コミを通じて参加希望者を募ったところ、1000人以上が集まった。みな留学生や会社員、自営業者などの一般市民だ。デモの写真を見ても、強面の男の姿はなく、女性や細身の男性が中心だったことがわかるだろう。どことなく頼りなげに見えるのはご愛敬といったところだろうか。

Aさんのみならず、ほとんどの参加者にとってこうした活動への参加は初めての経験だ。そもそも外国人がデモをしてもいいのかなど、すべてがわからなかった。申請のために出向いた警察署で教えてもらうことも多かったという。当初はアパホテルに意見書を提出するつもりだったが、そのためには事前にアパ側に連絡する必要があると警察に教えてもらい、それを断念したとも言っていた(事前に連絡することで、デモをすること自体を知られてしまうことになるからだ)。

また、不安に駆られて一度は中国大使館に電話してみたが、「法律を守ること、身の安全に気をつけること」との注意しか言われなかったという。デモをする前にわざわざ中国大使館に電話をするなど、民主主義の国の人々から見れば不思議な行動でしかないが、右も左もわからぬ民主主義の初心者なのだから仕方がない。

素人の集まりだけにデモの企画、運営は想像以上に大変だったとAさんは振り返る。警察への申請、参加希望者への連絡、スローガンやデモのスタイルの決定などなど、やらなければならないことは無数にある。「もう二度とやりませんよ」とAさんは苦笑していた。

資金の問題もあったが、寄付を集めると管理が大変になる上に留学生などお金がない人間が肩身の狭い思いをすることになると思い、Aさんが全額負担した。50万円を用意したが、最終的な支出は打ち合わせの会議室費用や横断幕の作成費など30万円強で収まったという。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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