コラム

ディープフェイクによる「偽情報」に注意を...各国で、選挙の妨害を狙った「サイバー工作」が多発

2024年06月08日(土)19時27分
台湾の蔡英文前総統も偽情報キャンペーンの標的に

蔡英文(2009年5月) Nicky Loh-Reuters

<今月のインド総選挙でもサイバー攻撃による妨害行為が多くみられたが、特に最近目立つのはAIやディープフェイク技術を使った偽情報キャンペーンだ>

インド総選挙の開票が6月4日に行われた。与党・インド人民党(BJP)が率いる与党連合が過半数を確保し、現職のナレンドラ・モディ首相が3期目に入ることが確実になった。ただ予想されていたような与党側の大勝には至らなかった。

■【画像】蔡英文を中傷するための「偽・性スキャンダル」が盛り込まれた電子書籍『蔡英文秘史』

モディ首相はこれまで、様々な難しい問題に取り組んできた。インドとパキスタンが領有権を主張してきた住民の大半がイスラム教徒で占められたインド北部カシミール地方の実質的な自治権を剥奪してインド政府の支配を強めた。現在続いているイスラエルとパレスチナの問題でも、インド国内で人口の15%を占めるイスラム教徒を牽制しながらヒンドゥー教のアイデンティティを重視するモディ政権は、イスラエルとの連帯を率直に表明し、インドとイスラエルの自由貿易協定の交渉を進めている。

サイバー空間でも、インドのハクティビスト集団によるサイバー攻撃活動などは、インドのイスラエルへの傾倒を示す。サイバー攻撃に積極的なイランは、中東におけるインドの言動に不快感を示すために、サイバー攻撃を躊躇わないだろう。

最も危険なのは世界最大のサイバー攻撃国家・中国

だがこうした問題を超えて、インドにとって最も危険なのは、世界最大のサイバー攻撃国家である中国の存在だ。過去5年間に行われたインドに対するサイバー攻撃のうち、公に追跡された最も重大な攻撃32件のうち、16件が中国から、8件がパキスタンからであり、インドのインフラに対する攻撃の大部分はこの2カ国が行なっている。しかし、この2カ国のうち、今後数年から数十年の間にインドにとって非常に深刻な脅威となる能力と可能性を持っているのは中国だ。

世界最大の民主主義国家であるインドが選挙を実施する中、以下のようなサイバー脅威が発生し、その巧妙さは強まっていた。

フィッシング(情報を盗むことを目的とした、偽の情報源からの詐欺的な電子メールやメッセージ)や、偽情報キャンペーン(世論を操作するための偽情報の拡散)、DDoS攻撃(有権者とのコミュニケーションを妨害するために選挙サイトを攻撃すること)、有権者への弾圧(誤情報の拡散や有権者登録システムへの攻撃)、選挙インフラのハッキング(投票を妨害するために有権者のデータベースやシステムを狙う)、ディープフェイク動画(候補者の信用を失墜させたり、暴力を煽ったりするための捏造動画)、そしてランサムウェア攻撃(ファイルやシステムを暗号化して選挙組織から金銭を脅し取る)だ。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、緩和的金融政策を維持へ 経済リスクに対

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、12人死亡 北西部の軍学

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 10
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story