コラム

街に住居に公園に...今日の防犯対策に生かされる「城壁都市のDNA」 理にかなっている理由とは?

2025年01月16日(木)10時15分

城壁都市のDNAはヨーロッパでも確認できる。例えば、ウィーン(オーストリア)の低所得者向け市営住宅は、城壁都市のミニチュア版のような集合住宅だ(写真6)。

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写真6 出典:拙著『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)

マンションの入り口にはゲートバーが設置され、手動で開閉しなければ出入りできず、各住戸にも中庭側からしかアクセスできない。つまり、居住空間は「入りにくい場所」になっている。

中庭に造られた公園(遊び場)は、周囲360度から視線が届くので「見えやすい場所」だ。

さらに、この公園を「入りにくい場所」にするため、①公園の通り抜けをしないよう歩行者を誘導する舗装道を左右に設け、②近づいてくる人に子供が気づける時間を確保するバッファーゾーン(緩衝地帯)として、遊具と歩道の間に芝生を植えている。

また、西洋諸国では公園にも城壁都市のDNAを見ることができる。例えば、バルセロナ(スペイン)の公園では、遊具のある遊び場がフェンスで囲まれていて、入りにくい場所になっている(写真7)。その姿はさながら城壁都市のミニチュアのようだ。

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写真7 筆者撮影

ウェリントン(ニュージーランド)の公園もフェンスに囲まれ、ゾーニングされている(写真8)。子供が連れ去られるケースのほとんどは、子供がだまされて自分からついていくパターン。だが、ゾーニングされている公園では、子供専用のスペースに入るだけで、子供も周りの大人も警戒するので、だまして連れ出すことは難しい。

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写真8 出典:拙著『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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