コラム

子供たちの顔に「笑顔」が...医療ひっ迫するウクライナに「日本の車いす」を贈るプロジェクト

2023年04月27日(木)19時15分

入院している患者数人に話を聞くと、ロシア軍が侵攻してくる前は学生だったり、農夫だったり、会社員だったり、普通の市民生活を送っていた人たちばかりだった。前線でロシア軍に狙撃されたり、地雷を踏んだり、砲弾で負傷したりしたという。片足を失った患者も目立つ。

230427kmr_lwu07.jpg

前線で右足を失った負傷兵(同)

妻のオクサーナさん(23)に車いすを押してもらって公園に散歩に出掛けたサーシャさん(25)に声をかけた。日本の車いすはまだ散歩デビューしていなかった。

230427kmr_lwu08.jpg

サーシャさんとオクサーナさん(同)

26日に退院するサーシャさんは「東部ハルキウの自宅まで列車で20時間かけて帰るため妻と2歳の娘、実母が迎えに来てくれました。病院から提供された車いすに乗って帰ります」と話す。しかし退院して家族のいる自宅に戻れる患者は決して多くない。サーシャさんは頭部に重傷を負って手術を受けたため、戦場に戻ることなく帰宅が許された。

230427kmr_lwu09.jpg

第3市立病院のリハビリセンターでは負傷兵がリハビリを受けていた(同)

戦時病院と化した州立病院

漏洩した米軍の機密文書によると、今年2月時点でウクライナ軍の死傷者は12万4500人~13万1000人。このうち戦死者は最大1万7500人とされる。米国はこれまでウクライナ軍の死傷者を約10万人と見積もっていた。ラザルチュク院長によると、外傷を負った患者の割合は20~25%から80~85%に跳ね上がった。戦闘外傷を負った患者が激増したからだ。

車いす15台が寄贈された州立病院のビクトル・ザポロジェッツ院長は「入院しているのは負傷兵ばかりです。戦場で負傷した患者183人が入院しています。昨年4月から患者が増え、今年1月までに6000人の患者に2万回の手術を施しました。1人で何度も手術を受ける患者がいます。まさに戦時病院です」と言う。

患者の多くはリハビリを終えると戦場に戻る。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍を引かない限り戦争は終わらない。頭部に重傷を負って家族の元に戻れるサーシャさんが幸せなのかどうか筆者には判断がつかなかった。日本の車いすもいずれ家族との散歩のお供をするようになり、故郷で生活のサポートをする。

心を込めて整備、清掃された日本の車いすはきっと家族に希望を灯す。筆者がお手伝いしているJapanese Wheelchair Project for Ukraineではすでに295台の車いすをウクライナに送っており、5月中の第3便、6月の第4便を目指して準備を進めている。寄付はこちらから

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story