コラム

子供たちの顔に「笑顔」が...医療ひっ迫するウクライナに「日本の車いす」を贈るプロジェクト

2023年04月27日(木)19時15分

医師165人、看護師310人。夕方から夜にかけ、12人の医師が夜勤につく。侵攻以来、合計して1万5000人の子どもが入院し、7000人の救急外来、4500件の手術を処理した。小児がん病棟では個室の子ども1人に1台の車いすが割り当てられ、日本から寄贈された車いすが個室の前に置かれていた。

230427kmr_lwu03.png

リハビリセンターで母親に日本の車いすを押してもらう女の子(同)

リハビリセンターでは日本の車いすに乗った女の子がお母さんに押してもらって、笑顔を浮かべた。院内の廊下でイミコラちゃん(3つ)の車いすを押していた母親のナタリアさん(29)は「リハビリが終わったら、日本から寄贈された車いすを頂けるそうです。2つの肩ベルトで固定されるので安心です」と話した。

230427kmr_lwu04.png

イミコラちゃんとナタリアさん(同)

地下を防空壕に改造した児童養護施設

地域特化型児童養護施設には日本のバギーや車いす4台が贈られた。昨年、空襲に備えて地下の部屋を子どもたちが長時間にわたって避難できる防空壕に改造した。施設で暮らす8人を含む乳児から12歳児までの56人が入所しており、空襲警報が鳴ると子どもたちを抱きかかえて防空壕に逃げ込んだ。不安を紛らわせるため、みんなで歌ったりしたという。

230427kmr_lwu05.jpg

地下を改造してつくった防空壕(同)

施設には孤児や両親と離れて暮らす子どもたちが多い。ロシア軍の侵攻で首都キーウから避難してきた脳性麻痺の12歳男児もいる。この施設では子どもたちのリハビリに取り組んでおり、外来の子どもも訪れるため、スタッフは総数約100人にのぼる。テルノピリ州にはこの児童養護施設しかなく、予算も十分ではない。

230427kmr_lwu06.jpg

日本のバギーや車いすに乗る子どもたち(プライバシー保護のため顔は隠しています)

施設の建物はひどく老朽化し、リハビリ器具も不足している。インハ・クベイ所長は日本から寄贈されたバギーや車いすについて「ウクライナのものに比べて重くないので助かります。機能性も高く、動きやすい」と語る。医学部の研修生に日本の車いすに乗せてもらった子どもたちはうれしそうだった。

ウクライナでは独立後、プライベート医療の割合が6割ぐらいまで増えたが、公立の病院や養護施設では原則、無償で医療・福祉サービスを提供している。州ごとに2つの公立子ども病院と1つの児童養護施設があるが、国内避難民の大量発生で子ども病院や養護施設は逼迫しているのが現状だ。

「病床は負傷兵で埋まった」

リハビリ施設も備えた第3市立病院には日本の大人用車いす14台が届いたばかりだった。このうち5台が廊下でスタンバイしていた。ユーリー・ラザルチュク院長は「140床あるベッドの大半は負傷兵で埋まっています。入院患者の85%が負傷兵です。日本から寄贈してもらった車いすは当面、院内の移動用に使います」と説明する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ上振れにECBは留意を、金利変更は不要=ス

ワールド

中国、米安保戦略に反発 台湾問題「レッドライン」と

ビジネス

インドネシア、輸出代金の外貨保有規則を改定へ

ワールド

野村、今週の米利下げ予想 依然微妙
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story