コラム

一番なついていた犬はロシア兵に銃殺され...「700匹の命」を守る「シェルターの母」

2022年06月14日(火)18時10分

「動物たちを守りたいという一心でした」

女性職員の1人が泣き始めた。シェルター内を再捜索したロシア兵は携帯電話を見つけた。アーシャさんは自分の携帯電話を水樽の中に放り込んで壊していた。女性職員が隠していたのだ。ロシア兵は男性職員を連行し、暴行を加えた。この男性職員が戻ってきたのは翌朝の午前6時だった。アーシャさんはホッと胸をなで下ろした。

アーシャさんに怖くなかったか尋ねてみた。「動物たちを守りたい、シェルターを守りたいという一心でした。何が恐怖なのか分かりませんでした。責任感が恐怖心を上回ったのです」とアーシャさんは当たり前のような顔をして話した。雌ライオンは4月上旬にポーランドに引き取られていった。動物たちの新たな飼い主を見つけるのがアーシャさんたちのゴールだ。

220614kmr_ura06.jpg

ロシア軍が再び攻めてくるのに備えて犬や猫のエサを蓄えている(筆者撮影)

シェルターの物的損害は3万ドル(約400万円)を超えた。戦争で捨てられた動物は増えたのに、ペットフードの供給は減った。犬や猫のエサは月3000~5000キログラムが消費される。電気と水を供給する発電機の燃料も必要だが、35%も値上がりした。ボランティアも有償でなければ長続きしない。犬や猫の去勢・避妊手術に対する偏見も根強く残る。

220614kmr_ura07.jpg

アーシャさんの跡を継ぐというマーシャさん(筆者撮影)

アーシャさんと同じように動物好きのマーシャさんは「悲しいこと、悪いことが多いからこそ世の中のためになることをしたい」と祖母のシェルターを引き継ぐことを心に決める。アーシャさんは「今はロシアを3度呪いたい。ひどいのはウラジーミル・プーチン露大統領だけと思っていたが、ロシア全体に問題があることが分かりました」と語る。

・アーシャさんが運営するホストメリシェルター
gostomelshelter.com/war

・シェルターの寄付はこちらから
gofundme.com/f/wwjxya-please-donate

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国

ビジネス

仏製造業PMI、10月改定48.8 需要低迷続く

ビジネス

英製造業PMI、10月49.7に改善 ジャガー生産

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、10月は50 輸出受注が4カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story