コラム

ウクライナ危機で分断される欧州 米と連携強める英 宥和政策の独 独自外交唱える仏

2022年01月23日(日)18時39分

米デラウェア州の空軍基地でウクライナへの空輸を待つ武器弾薬(1月21日) U.S. Air Force/Mauricio Campino/REUTERS

<ロシアはウクライナに親露派政権を樹立しようと計画していると、英外務省が異例の発表。クリミアも含めたウクライナの主権と領土保全を強く求めたが>

[ロンドン発]ウラジーミル・プーチン露大統領がウクライナ国境に12万7千人を展開する一方で、親露派政権を樹立する計画を立てていると英外務省が22日夜、異例の発表を行った。ウクライナ最高議会元議員イェフェン・ムラエフ氏がロシア傀儡政権の大統領候補に考えられているという。ムラエフ氏はロシアのクリミア併合を支持する親露派だ。

旧ソ連崩壊後、ウクライナではロシア離れと欧州統合を加速させる政権が続いた。ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(2010~14年)も欧州連合(EU)との連合協定を進めたが、プーチン氏の圧力に屈して撤回。これに反発して大規模な反政府デモが起き、ヤヌコビッチ氏はロシアに逃亡、プーチン氏によるクリミア併合とウクライナ東部紛争の引き金となった。

英外務省の発表によると、ウクライナの元政府要人4人もロシアの情報機関とつながりを持っているという。4人とも2014年の政変でロシアに亡命している。
・セルヒー・アルブゾフ氏、12~14年ウクライナの第一副首相、14年に首相代行。
・アンドリー・クリューイエフ氏、10~12年第一副首相、ヤヌコビッチ元大統領の首席補佐官。
・ウォロディミル・シヴコビッチ氏、元ウクライナ国家安全保障・国防会議副議長。ロシアの情報機関と連携していたとして米財務省の制裁対象となっている。
・ミコラ・アザロフ氏、10~14年首相。 ロシアに逃れ、亡命政権樹立。ウクライナ政府の要請で国際刑事警察機構(インターポール)から指名手配中。

現在ウクライナ侵攻計画に関与するロシア工作員と接触している者もいるとされる。リズ・トラス英外相は「本日の発表はウクライナ政権の転覆を目的としたロシアの活動に光を当てクレムリンの考えをうかがわせる。ロシアは緊張を和らげ、侵略と偽情報キャンペーンを止め、外交の道を歩むべきだ」とクリミアを含むウクライナの主権と領土保全を支持した。

英紙「キエフへの侵攻なしに政権を交代させることはできない」

英外務省の発表は5人を名指ししたものの対露協力の詳細には一切触れなかった。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は「米政府の支援を得て英政府は極めて異例の公式声明を発表した」とトップで報じた。米政府も今月14日、ロシアがウクライナ東部に破壊工作員を送り込み、侵攻の口実となる挑発を行っていると非難している。

しかし英最大野党・労働党寄りの英紙ガーディアンは「ウクライナの政治家は首都キエフへの本格的な侵攻なしに政権を交代させることはできないと懐疑的だった。モスクワに亡命した4人とロシア指導者の関係はもはや公然の秘密だ。当のムラエフ氏は『私はロシアから追放されている』と笑いながら語った」と報じた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次回利上げ提案、確たること申し上げられない=田村日

ビジネス

英GDP、8月は前月比+0.1% 予想と一致

ワールド

タイ・カンボジア軍事衝突につながった地雷、最近埋設

ワールド

ロス大規模山火事、放火疑いで逮捕の男を起訴 12人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story