コラム

ワクチンが効かない?南アフリカ変異株「オミクロン」、悪夢のシナリオ

2021年11月27日(土)11時38分
新型コロナ株

オミクロン株はデルタ株よりはるかに感染力が強い上、免疫に関係するスパイクタンパク質に変異がみられる(写真はイメージ) Inok-iStock

<ワクチン接種か否かでもめ続ける人類の前に新たな脅威。変異を続ける新型コロナウイルスとの戦いはまだ終わっていなかった>

[ロンドン発]南アフリカで新たに見つかった新型コロナウイルス変異株(B.1.1.529系統)について、世界保健機関(WHO)は26日、デルタ(インド変異)株に続く5番目の「懸念すべき変異株(VOC)」に指定し、ギリシャ文字の「オミクロン」と名付けた。ボツワナや香港、イスラエル、ベルギーでも検出され、世界に広がるのは時間の問題だ。

日本の国立感染症研究所によると、ウイルスの突起部(スパイクタンパク質)に32カ所の変異があり、感染性を高めるだけでなく、ワクチンや自然感染による免疫を回避する恐れがあるという。ロックダウン(都市封鎖)に逆戻りする悪夢のシナリオを懸念して、株価や原油価格が大幅に急落する今年最悪の「ブラックフライデー」となった。

ベルギーにあるルーヴェン・カトリック大学のトム・ヴェンセリアーズ教授(生物学・生物統計学)は連続ツイートで「デルタ株は(占有率が)0.1%から50%に拡大するのに数カ月要したのに、B.1.1.529はわずか2週間しかかからなかった。1日当たりの成長率はデルタ株に比べ38%高いと推定される」とその衝撃を語っている。

https://twitter.com/TWenseleers/status/1464069643144994819

■WHOが指定した「懸念すべき変異株(VOC)」
211127kimurachart.png
WHO資料をもとに筆者作成

英国内ではまだオミクロン株の感染者は確認されていないものの、サジド・ジャビド英保健相は「国際的に大きな懸念がある」と警戒を呼びかけた。欧州連合(EU)加盟国は南アなどアフリカ南部諸国への渡航を一時的に停止し、アメリカ、イギリス、マレーシア、シンガポールなどの国も南アなどを対象に渡航制限を実施した。

コロナ再流行を制御するため欧州大陸ではワクチンパスポートの提示やワクチン接種が義務化される動きに反発してベルギーやオランダ、オーストリアなど各国で反ワクチン、反ロックダウンを唱える若者や極右グループが暴徒化し、警官隊と衝突する騒ぎに発展している。今後、オミクロン株の感染が広がれば、再びカオスに陥る恐れがある。

デルタ株を凌駕するオミクロン株の感染力

新型コロナウイルスのゲノムを分析して変異株をリアルタイムで追跡してきた英COG-UKゲノミクスUKコンソーシアムの責任者で、ケンブリッジ大学のシャロン・ピーコック教授(公衆衛生・微生物学)はこう語る。

「南アで今月16日に記録されたコロナ感染者数は273例だったが、25日に1200例以上に増加した。 このうち80%以上がハウテン州での感染だ。 再生産数(R)は南ア全体で1.47だが、ハウテン州の初期推定値は1.93と症例の成長率が他の地域よりかなり高い。オミクロン株は非常に珍しい変異の組み合わせを持ち、これまでのVOCとは異なる」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story