コラム

勢いづく「メルクロン」vs 落ち目のメイ イギリスはEUを離脱できないかもしれない

2017年07月13日(木)14時31分

マクロンは一貫してEU統合を主張。経済・財政政策をめぐっては同床異夢のメルケルとの蜜月を演出。EUを危機から救った「メルクロン」と称賛され、首脳外交ではトランプやロシア大統領ウラジミール・プーチンと互角に渡り合った。

フランス国内では盤石の政権基盤を背景に、ICT(情報通信技術)による経済のデジタル化戦略、2025年までに原発17基を廃止して現在75%に達している電力の原発依存度を50%に引き下げ、40年までにガソリン車・ディーゼル車の全廃などの政策を矢継ぎ早に打ち上げた。

ついているときには追い風も吹く。9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で最終決定されるが、「2024年パリ五輪」がいよいよ有力になってきた。

メルクロンは完全に「アゲアゲ」だ。一方、「驕る平家は久しからず」「明智光秀の三日天下(治世が短いという意味)」を見事なほど同時に実現してしまったメイは「サゲサゲ」が止まらない。

【メイ】
EU離脱をいいことに「負担の拡大」政策をマニフェスト(政権公約)に盛り込み、6月の総選挙でよもやの過半数割れ。北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)から閣外協力を取り付けるため地域振興策として10億ポンドの支出を約束し、「有権者には緊縮策を強いているのに自分は大盤振る舞い」と批判された。80人以上の犠牲者を出した高層住宅グレンフェル・タワー火災では現場視察で低所得者層の被災者を素通りし、集中砲火を浴びた。

EU側はメイ政権下でのハードブレグジットを想定してイギリス抜きの青写真を描いており、EUの要求をのむか、のまないかだという強硬姿勢を見せる。DUPの閣外協力が崩壊すれば、その時点でイギリスは解散・総選挙となる。直近の世論調査では最大野党・労働党が最大8%ポイントもリードしており、鉄道の再国有化を唱える強硬左派ジェレミー・コービンが次期首相になるかもしれない。

メイと他のEU加盟国首脳は戦火こそ交えていないが、事実上の「戦争状態」と言って良い。メルケルにも、マクロンにも、窮地のメイに助け舟を出すつもりは毛頭ない。「メルクロン」の目から見ればメイは「EUのマリーヌ・ルペン」に他ならないからだ。

コービン労働党はマニフェストで人の自由移動は受け入れられないとEU離脱を鮮明にしたが、単一市場へのアクセスはできるだけ残したいという願望を記している。しかしソフトブレグジット派のコービンが首相になっても、EUの純化を進める「メルクロン」が態度を軟化させる姿は想像できない。

イギリスのインフレ率は2.7%まで上昇したのに対して、国内総生産(GDP)成長率は急減速している。元民間企業・技術革新・技能相ビンス・ケーブル(自由民主党)は「イギリスのEU離脱は起こりようがないのかもしれないと考え始めるようになった」と首を振った。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story