コラム

トランプ、プーチン、それともメルケル? 保守ポピュリズムが台頭する旧東欧諸国の選択

2017年07月24日(月)17時54分

トゥスクはポーランドの最大野党「市民プラットフォーム」出身の元首相で、EU統合を推進してきた。「今やEUはドイツにより動かされている。加盟国の利益は無視されている」「トゥスクはポーランドを批判するブリュッセル支配層の一翼を担っている」というのが、「法の正義」がトゥスク再任に反対した理由だ。

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トゥスク再任に反対したポーランド首相ベアタ・シドゥウォ(2017年3月)  Masato Kimura

難民危機で国境に有刺鉄線付きのフェンスを建設し、ドイツの首相アンゲラ・メルケルを困惑させたハンガリーのオルバンにしてみれば、ポーランドが対EUの隊列に加わってくれたのは頼もしい限りである。これまでハンガリーがEU内で一番の「叱られ役」だったからだ。

トゥスクは「『法と正義』政権による最高裁人事への介入は欧州の価値や基準に逆行する。ポーランドを欧州で孤立させるものだ」と批判し、EUの執行機関、欧州委員会の第一副委員長フランス・ティーマーマンスは「司法を政府の完全な政治支配下に置きかねない。EU基本法(リスボン条約)に違反している」とEUでの議決権停止を含めた厳しい制裁を検討している。

ドイツの法相ハイコ・マスも大衆日曜紙に「ポーランドで司法の独立が危機にさらされている。EUは座視するわけにいかない。法の支配と民主主義はEUの基盤だ」と訴えた。しかしポーランドに制裁を科すには、加盟国の総意が必要だ。ハンガリーのオルバンが拒否権を発動すれば、ポーランドへの制裁を阻止できる。

ポーランドはロシアに対するミサイル防衛やアメリカからの液化天然ガス輸入を進めるため、訪欧したアメリカの大統領ドナルド・トランプを大歓迎した。一方、ハンガリーのオルバンは原発建設のためロシアと提携し、露大統領ウラジーミル・プーチンに秋波を送る。

ポーランドもハンガリーもEUを離脱するつもりは毛頭ないが、トランプやプーチンをカードに使うことで、EUやメルケルを牽制し保守化を進める思惑がすけて見えてくる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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