コラム

独りぼっちの五輪 ドーピング疑惑のロシア陸上界からリオ五輪に出場した「美しすぎるジャンパー」

2016年10月28日(金)14時50分

 ダリアさんは現在「世界中の人ともっとコミュニケーションを取れるようになりたい」とニューヨークに語学留学している。五輪が終わった今、リオ五輪とドーピング問題についてどう思っているか尋ねてみた。

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普段のダリアさん Taishi Sasayama

 リオ五輪を前に、世界を驚かせたロシアのドーピング問題は記憶に新しい。世界反ドーピング機関(WADA)がロシアが国家ぐるみでドーピング隠しを行っていたとする報告書を公表した。

 報告書によればロシアの検査所で陽性反応が隠蔽された件数は陸上競技が最多。その報告書を受け、国際陸連はロシア陸上選手の参加資格を取り消した。

 米国を拠点に活動していたダリアさんは米国に3年間住み、抜き打ち検査も受けていることを理由に「自分はクリーンな選手で何も疑いの余地がない」と資格停止処分を不服としてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に申し立てた。

愛国者のバッシング

 最終的にダリアさんの主張が認められ、ロシア陸上界から唯一人の参加となった。ダリアさんにとって初めての五輪。結果は9位だった。ダリアさんは結果には満足しているが、やはり一連の問題で精神的な負担は大きかったと打ち明けた。

「初めてのオリンピックというプレッシャーと、出場できるかわからないという不安で、結果が出る1週間前まで全く練習に打ち込めなかった」

 幸い出場が認められたが、ダリアさんを苦しめたのはロシア国内からのバッシングだ。他の選手と違い米国を拠点にしていたことや出場を喜ぶ投稿をSNSにしたことが、ロシア国内で「ダリアは裏切り者」という非難の嵐を巻き起こした。

 ダリアさんのインスタグラムには誹謗中傷の書き込みが殺到した。政党「ロシアの共産主義者」のマクシム・スライキン党首からも「同胞意識がない」と非難された。

 ダリアさんは「気にしないのは難しかった」と肩を落とした。しかし「米国で練習したからといって、オリンピックに出る時はロシア国旗を掲げるし、メダルを取ればロシアのものになるんだから、どこで練習するかは全く関係ない」という意識を持ち続けた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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