コラム

閉ざされた「愛の橋」 寛容の国スウェーデンまで国境管理

2016年01月08日(金)15時00分

 人口100万人当たりの難民認定申請者数は2014年時点で、スウェーデンが7981人と経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では最も多い。居住権や手当など難民政策が他の欧州諸国と比べても手厚く、昨年1年間で19万人の難民が庇護を求めて寛容の国スウェーデンにたどり着いたとみられている。これまでに受け入れた難民を頼って、新たな難民が次から次へとやって来る。

 2019年以降、毎年700億スウェーデン・クローナ(約9600億円)が難民対策に必要になると言われているが、これはスウェーデンの学校・大学・科学調査を合わせた年間予算と同じ規模だ。国内の難民受け入れ施設が払底し、北極圏のスキーリゾートに送られた難民もいる。テントの施設で暮らす難民は北欧の寒さに身を震わせている。新たに到着した難民は路上生活を余儀なくされ、市民団体からはストックホルムの王宮を開放してはどうかという声も上がっているほどだ。

 昨年9月、スウェーデンのローベン首相は「私のヨーロッパは戦争から逃れてきた人々を受け入れる。私のヨーロッパは壁を築かない」と宣言した。しかし予想をはるかに上回る難民流入に「このままでは対応できない」と悲鳴を上げて政策を転換した。昨年11月に難民の受け入れ制限を発表せざるを得なくなったとき、連立政権に参加する緑の党のロムソン副首相は「とても悲しい決定だ」と涙を落とした。スウェーデンは1週間に1万人に達した難民の流入を1千人にまで抑制したいという。がしかし、中東の情勢はますます混迷を深め、難民が減る兆しはいっこうに見えない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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