コラム

通勤時間というムダをなくせば、ニッポンの生産性は劇的に向上する

2017年10月11日(水)12時15分

東京の人口密度はパリの半分しかない

日本は土地が狭く人口密度が高いのでやむを得ないのだという意見もあるが、これは単なるイメージに過ぎない。算定の方法にもよるが、東京の人口密度は諸外国と比較して特別に高いわけではない。

人口密度はどの範囲で算定するのかで結果が大きく変わってくる。東京の人口密度が高いと算定されるのは、単純な行政区分での比較や、周辺都市を加えたケースがほとんどである。東京都心やロンドン中心部、マンハッタン、パリ市といった中枢エリアで比較した場合、東京の人口密度はパリやニューヨークの半分しかない。実際、パリやニューヨークの中心部には多数の市民が住んでいるが、東京都心の夜間人口は激減してしまう。

諸外国の例を見れば、長時間の通勤が人口密度の問題ではないことが分かるのだが、なぜ日本ではこのようなライフスタイルが定着してしまったのだろうか。様々な理由があるので単純化することは難しいが、日本の宅地開発のあり方が大きく影響していることは間違いない。

昭和の時代はまだ貧しく、経済全体として住宅の整備にかけられる余裕はあまりなかった。コストが圧倒的に安い郊外を中心に宅地開発をせざるを得なかったというのが実情だろう。鉄道を使って郊外の家から長距離通勤するというライフスタイルはこうして確立したのである。

本来であれば、生活水準がある程度、向上した段階で、都市部の住宅整備を進めるべきであった。だが、昭和型の低コストな宅地開発はその後も続き、都市部の住宅整備は一向に進まなかった。これが通勤時間が長くなってしまった最大の原因である。

このところ郊外から都市部に転居する人が増えているが、こうした動きは、通勤コストのムダが強く意識されてきた結果と考えられる。今後は人口減少が本格化することを考えると、都市部への人口シフトはさらに加速する可能性が高い。

通勤時間を生産的な業務に充当する効果は計り知れない

このところ働き方改革が社会的な課題となっているが、通勤時間の削減は、労働者の生産性を向上させる有力な手段となる。都市部における安価で良質な住宅の提供を促していけば、経済全体の生産性も大きく改善するはずだ。

すでに郊外に住宅を保有してしまった人も諦める必要はない。在宅勤務の拡大や就業時間の柔軟な運用によって通勤時間を最小限にすることは可能である。これまで通勤に充当していた時間を生産的な仕事に振り向ければ、どれだけの成果が得られるか想像してみてほしい。筆者自身は10年ほど前から職住接近を実践しているが、その効果は想像をはるかに超えていた。

だがこうした改善を進めていくためには、日本の職場における独特の業務プロセスを見直す必要がある。日本企業の業務プロセスは、全員が顔を合わせて仕事をすることが大前提となっており、結果として責任の所在が不明確になっていることが多い。

臨機応変に業務に対応できるという利点もあるが、これが在宅勤務の妨げになっているのも事実である。個人の職責や成果を明確にした業務プロセスを確立すれば、在宅勤務や勤務時間の柔軟運用もやりやすくなるはずだ。こうした改革を実施するには、現場の努力だけではどうしても限界がある。最終的には経営の責任で実現すべきテーマということになるだろう。


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外相、キューバ外相と会談 国家主権と安全保障を

ビジネス

マレーシア、今年の成長予測上げも AIブームが後押

ビジネス

英建設業PMI、1月は46.4に上昇 昨年5月以来

ワールド

ドイツ企業、政府の経済政策に低評価=IFO調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 4
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story