コラム

通勤時間というムダをなくせば、ニッポンの生産性は劇的に向上する

2017年10月11日(水)12時15分

写真はイメージです。 aluxum-iStock.

<日本人の通勤時間はアメリカ人の約2倍。生産性アップを目指すなら「職住接近」にヒントあり>

神奈川県に住む人の通勤コストが年間100万円に達するという話がネットで話題となっている。これは現実の通勤コストではなく機会費用の話なのだが、長い通勤時間が日本人の生活にマイナスの影響を与えているのは確かだ。通勤時間の問題は、生産性の問題と直結しており、働き方改革そのものといってよい。

給料が高くてもコストが高すぎると効率が悪くなる

内閣府がまとめた報告書によると、都道府県別の通勤コストがもっとも高かったのは神奈川県で年間97.7万円だった。もっとも安かった県は31.2万円だったので、神奈川県とは年間60万円の差がついている。

通勤費が100万円と聞くと、ちょっとびっくりしてしまうが、落ち着いて考えてみれば、実際の通勤費がここまで高額でないことは、自身の定期代などから想像できるだろう。

この調査は、通勤費を直接調べたものではなく、平均的な通勤時間に時給をかけてコストを算出し、さらに追加の住宅コスト(家賃が他と比べて高い部分の追加費用)を加えたもので、あくまで理論的な数値である。

通勤がなければその時間を仕事に費やすことができるので、もっと多くのお金を稼ぐことができる。つまり、通勤は一種の機会損失ということになるが、経済学的にはその金額を機会費用と呼ぶ。神奈川県民の(機会費用としての)通勤コストが100万円ということは、神奈川県民が現在の所得を得るためには、100万円の機会費用をかけなければならないという意味になる。

通勤に関する機会費用は、平均時給が高ければ高いほど、通勤時間が長いほど、多く算出されることになるので、通勤がどれだけの負担になっているのかを知る有益な指標であることは間違いない。

実際、総務省が行っている社会生活基本調査(2011年)では、神奈川県の平均通勤時間は1時間40分で全国トップだった。1人あたりの県民所得も292万円と比較的高い部類に入るので、両者を掛け合わせた理論的な通勤コストは当然のことながら高く計算される。

神奈川県に限らず、日本人の通勤時間が世界でも突出して長いことはよく知られている。日本人の平均的な通勤時間は米国や英国の2倍近くもあるが、これが生活全般を圧迫し、生産性にもマイナスの影響を与えているのは間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪6月就業者数は小幅増、予想大幅に下回る 失業率3

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 

ワールド

トランプ政権、加州高速鉄道計画への資金支援撤回 「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story