コラム

アメリカの対中優位は揺るがないのか......「旧友」ジョセフ・ナイ教授との議論

2025年03月15日(土)14時30分

市場を奪う中国のソフトパワー

筆者はこれまで、全体主義中国の文化が日本、そして世界の青年の気を引くことなどあり得ないと思ってきた。しかし生活水準が上がったことで中国人のマインドも現代化し、アニメやコンピューターゲームでは日本の技術も吸収して、ほかならぬ日本で市場を奪うようになっている。

同盟が相対的な存在になったところに、アメリカ自身の力も落ちてきている。バイデン政権そしてトランプ政権は製造業の復活に努めてきたが、バイデン時代の補助金や、トランプ時代の関税引き上げでは米製造業は復活しないだろう。株主が短期的利益を求めるために、企業が長期的視野の投資ができず、利益率至上で過度の合理化を行い製品の質を下げてしまうことなど、構造的な問題の修正が必要だ。


米軍は今、方向性を見失っている。国防費はこれから5年間毎年8%ずつ削減する目標を示され、「自由と民主主義のために、同盟諸国と共に」という旗印も畳まれた。国外の米軍ははしごを外された気分だろう。入隊する若者は減少し、新兵器の開発は一部の大企業に集中して小回りの利かないものとなり、建艦能力は失われて韓国の造船企業が資本参加するありさまである。

これまでアメリカの一部(「ネオコン」と呼ばれた)は、優越感あるいは戦略に基づき、「民主主義の普及」を旗印に途上国の政権を倒しては、かえって混乱とアメリカへの警戒心を呼んできた。トランプ政権がこれを止めたのはいいことだが、代わってパレスチナ自治区ガザを購入して住民を追い出すとか、グリーンランドを購入するとか、帝国主義に転じたのでは幻滅だ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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